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企業と働く人との新たな関係

2019年05月28日 井熊均


 最近海外に行くと、物価が高いな、と思うことが多くなっています。アジアでもシンガポールや香港は既に日本人にとって物価の高い地域になっていますし、北京や上海でもホテルや高級なレストランの価格は高く見えます。アジアなら大手を振ってどこの店でも入っていけたのは、今は昔の話です。このまま行けば、近い将来、日本人はアジアの大都市で安い店を探して食事を取るようになるでしょう。

 日本人の購買力の相対的な低下の原因は、言うまでもなく、長い間賃金が伸びていないことにあります。バブル崩壊以降のデフレが原因と言ってしまえばそれまでですが、政策運営や企業経営によるところもあるのではないでしょうか。政府については、賃金をいかに上げるか、あるいは上げるためのムーブメントをどう作るか、を重視しなかった期間が長くありました。企業はバブル崩壊以降の緊縮指向の中で従業員の賃金を抑え込んで来ました。個々の企業として合理的でも、それがまとまりとなった時、自らが最も有利に戦える国内市場を委縮させることにつながりました。例えば、中国では世帯年収に近い価格の車を買うそうですが、日本では世帯年収の3分の1くらいの車を買うのがせいぜいです。

 2030年を待たずに、単純な業務の多くがコンピュータに代替されるようになります。今、コンピュータにできない創造的な仕事ができる社員が欲しい、と考えない企業経営者はいないと思います。そうした状況が賃金の停滞路線から転じる機会になるかもしれません。何故なら、創造的な仕事ができる人材の獲得は企業にとって投資であるからです。これから魅力的な賃金を提示できない企業に創造的な人材は集まらず、また離れていくでしょう。創造的な成果を出したら高い賃金を払う、という成果主義の考え方も敬遠されます。成果に見合った報酬を支払うという後払いの考えが創造性にそぐわないからです。

 AIや情報基盤の進化とアジアの台頭という時代のうねりの中、企業と働く人の新たな関係づくりが急務になっているのだと思います。


※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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