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新興EVメーカーが切り拓く新たなマーケット

2019年05月14日 程塚正史


 2019年4月下旬、上海モーターショーを訪問した。中国での国際モーターショーは北京あるいは上海で毎年開催されるが、世界における中国市場の重要性が高まるとともに、欧米や日本からの来場者も年々増えている印象だ。

 メルセデス、BMW、アウディなど従来型の高級車ブランドの展示には相変わらず多くの来場者が集まっていたのと同時に、外資ブランドも中国独自ブランドも昨年以上に様々なコンセプトのEVを打ち出してきたというのが、全体的な印象であった。

 数多くの種類のEVが展示されてはいたが、EVの新たなコンセプトは新興メーカーが牽引していることが明確にうかがえた。新興勢の出展数は昨年よりさらに増えて20社以上。新興勢は、斬新なデザイン、ディーラー網を用いない販売方式、車載アプリによるアフターサービスなどの特徴を有し、従来の完成車メーカーの戦略とは一線を画しているといえる。

 昨年までは新興勢というひと括りで注目されていたが、2019年現在、新興勢含めEVメーカー各社のポジショニングの違いが明確になりつつある。ポジショニングとして、次の4つに整理できる。(1)ハイエンド層向け高級EV、(2)小型の街乗り用EV、(3)大手の量産型EV、(4)どこにも当てはまらないEV、という分類だ。

 分類(1)の高級EVとしては、47万元(約799万円)の蔚来汽車(ブランド名NIO)を筆頭に、その他にも36万元(約612万元)の天際汽車(同NOVAT)、32万元(約544万円)の理想汽車(同理想ONE)が登場してきた。これらはポルシェなど欧州ブランドのデザイナーによる外観、助手席まで延びる全面ディスプレイを備えており、洗練された内外装を持つ。販売方式はアプリ経由で、ハイテク志向でライフスタイル重視のハイエンド市場向けだ。

 従来、米国のTESLAを除けば、この領域はNIO一社が孤軍奮闘していたが、NOVATや理想ONEなどが現れたことで、ブランド間の競争が発生し、さらに顧客の支持も集まり、市場が切り拓かれていく可能性が高まったと感じられる。これらのブランドは、自動車そのものだけでなく、自動車を通じたライフスタイルを提案、提供してくれるという理由で支持を集めているといえそうだ。従来の自動車ブランドとは違う価値提供という側面もあり、この市場の動向は、自動車業界関係者としてさらに注視したいと考えている。

 分類(2)の2人乗りの小型EVは、日本含め海外ではなかなか報道されないセグメントだが、中国市場では注目度が高まりつつある。これらを開発する新興勢も続々と登場しており、国機智駿、清源汽車、零砲汽車などが挙げられる。10万元(約170万円)台前半の価格帯で、日本の軽自動車よりさらに小型、手軽な街乗り用途が想定されている。この製品領域は従来手薄なカテゴリで、新興勢が一気に開拓する気配を見せている。

 一方で、NIOを除く古参の新興EVメーカーの一部は、デザイン、サービスともに特徴が貧弱だと感じた。20~30万元の価格帯で、外装も欧州勢のデザイナーを招いたものはなく、内装のディスプレイやシートの質感も量産型に近い印象だ。これらが分類(4)であり、モーターショーにおける集客もいまひとつであったようだ。今後の挽回策が注目される。

 既存大手の対応は、国営と民営で大きく分かれる。国営企業では新エネ車に関して昨年同様に目立った新しい動きは感じ取れなかった。民営企業の吉利、長城は、それぞれLynk&Co、欧拉ブランドを創設して新しい需要を開拓しようとしている。またBYDでも多くの車種の展示があった。これらが分類(3)で、大手の量産力によって低価格普及型のセグメントが開拓されていくと思われる。

 まとめると、従来型高級車ブランドへの支持は引き続き根強い一方で、EVによる斬新なコンセプトへの支持も高まりつつある。コンセプトの創出は新興勢が牽引しており、ハイエンド層向けと、小型街乗り向けが新たに開拓されつつある。ハイエンド層向けは、自動車そのものではなくライフスタイルの演出という価値を提示しようとしている、といえる。

 新興のすべてのブランドが生き残るとは考えにくく、今後さらに優勝劣敗が続くだろう。一方でさらに新しいコンセプトの創出も続くとみられ、来年か再来年には、従来の自動車の枠組みを超えるような、例えばシェアリング用途の1人乗り新型モビリティや、都市AIとの連携を前提とした車両のような展示もありそうな雰囲気が中国市場には感じ取れる。そしてその動向が、海外の市場にも影響を与えることになるのは間違いない。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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