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【次世代農業】
次世代農業の“芽” 第15回 農産物流通へのデータ活用の展望

2019年03月12日 各務友規


 農業分野にもIoT、AI等の技術導入が進み、農作業の効率化・高付加価値化の成果が、実際に得られるようになってきました。IoTの帰結として、データ活用に今後の期待が高まる中、国主導でデータ契約に関するガイドラインが整備され、農業生産で蓄積されたデータによる農産物流通の高度化に注目が集まっています。
 農産物流通分野に対する企業の関心はもともと高い状況にあります。農業生産分野に比べて、営業利益規模が大きく、構成プレイヤーも多岐にわたるため、効率化の余地が大きいとの判断があるためでしょう。特に昨年、卸売市場法の改正・規制緩和が行われ、農産物の流通構造に大きな変化の兆しが見えてきました。
 そこで、本稿では、農業生産によって収集されたデータの農産物流通への活用の展望について紹介します。

1.ロジスティクスの高度化
 生産現場にロボットやドローン等の先進機器が導入され、リアルタイムで植物の生育状態が観察できるようになりました。花芽や実の数・状態を画像で認識し、従来の作付面積や積算温度に基づく簡易シミュレーションよりも、収穫量や時期を正確に導出できる可能性があります。
 農業生産データの活用により、農産物のロジスティクスの効率化が期待できます。農産物の収穫量、時期の予測性の向上は、地域の集荷・選果施設の稼働率の向上や、人員シフトの調整による働き方の改善に寄与します。また、輸送トラックの事前手配、異なる品目の混載による積載率の向上、輸送ルートの動的変更により、流通コストの削減が期待できます。

2.ダイレクト流通・ネット通販への活用
 近年、興隆が著しいダイレクト流通・ネット通販へのデータ活用も進展しています。農業生産データの普及により、農産物が実際に物流センターに納入される前に、品目別・産地別・等級別の数量を把握できるようになりました。集荷段階、卸売市場等の段階から産物の在庫認識を行い、迅速なデリバリーにつなげます。既存の集荷・保管・出荷機能を有するインフラを活用できれば、高額な物流センターへの投資を低減できる効果も生みます。
 昨年卸売市場法の改正が行われ、仲卸業者の産地からの直荷引き、卸売業者の市場参加者以外への直接販売、卸売市場への農産物の搬入等の規制が緩和されました。消費地への良好なアクセス等、立地の良さを活かした卸売市場の新たな役割が期待されます。例えば、卸売業者、仲卸業者と提携すれば、卸売市場からラストワンマイルの配送が実現することになります。

3.データに基づく需給マッチングの可能性
 さらに、農産物の生産情報と調達情報の提供を通じて、供給者と実需者を直接つなぎ、タイトな商流・物流を成立させるオンライン市場の創設も構想されます。農産物の小口配送はコストが高いため、顧客や取扱品目を高単価なものに限定したり、効率的な輸送単位へ集約したりする等の工夫が有効です。また、貸し倒れ時の債権保証や短期の支払サイトの実現等、利用者確保に向けたサービス拡充も必須です。このような観点を踏まえ、独自の集配網や決済インフラを備えるベンチャー企業の台頭が注目を集めています。
 また、官民連携により、大規模なフードチェーンプラットフォームを構築する動きもあります。これまで需給は単純な調整しかできませんでしたが、今後、大規模な公的需給マッチングプラットフォームが創設されれば、実需者が購買に至るまでの意思決定を支える情報提供機能が活用できるようになるものと期待されています。農業者の創意・工夫や農産物の品質を消費者に伝え、コト消費を促すデータの確保がカギとなるでしょう。


この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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