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CSRを巡る動き:フランスのデモにみる気候変動の移行リスク

2019年03月01日 ESGリサーチセンター


 2018年11月から、フランス国内では毎週土曜日、「黄色いベスト運動」と呼ばれるマクロン政権に対するデモが続いており、1月末時点でも解消していません。デモ参加者には様々な意見があるというものの、きっかけは、マクロン政権の地球温暖化対策強化への反発でした。ガソリンや軽油などに増税することで、化石燃料に頼る交通量を減らそうという政策でしたが、クルマなしに生活できない地方の生活者や、他の手段にすぐに乗り換えられない低所得層などから反発が出たというわけです。デモの連続はフランスの安全状況にも影響を与え、日本では外務省が渡航者に対する注意喚起を行っています。

 フランスのデモは、2015年に金融安定理事会のカーニー議長が警鐘を鳴らし始めた、気候変動に伴うリスクの1つの具体的な現れと見ることができます。気候変動に伴うリスクについては、カーニー議長の警鐘を受け、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に議論の場を移し、脱炭素経済に向けた「移行リスク」と気候変動による異常気象等に対する「物理的リスク」の2つのリスクに定義が収斂しました。それらに対する各国政府や企業の理解も進んできています。

 TCFDによれば、脱炭素経済に向けた移行リスクへの対策を特に真剣に検討すべき業種としては、エネルギー、運輸、素材、不動産、農林水産等が挙げられています。特に、化石燃料への依存度の高いタイプのエネルギー企業や、輸送用機器など関連製品の製造業、運輸業等にとって、化石燃料に対する規制が強化されたり、市場が背を向けたり、技術が陳腐化したりするリスクが大きいとされています。

 しかし、金融安定の観点から気候変動を考えるという当初の投げかけに立ち戻ると、金融市場が嫌う「急激な、思いがけない変化」を起こさないことが、金融安定理事会が気候関連リスクを取り上げる理由でした。すなわち、気候変動による悪影響がこれ以上顕在化したり、温暖化対策が停滞したりすると、急速な規制強化をせざるを得ない状況を招き、そこで起こり得る「市場の急変が大混乱をもたらす」ということでした。フランスのデモは、政策強化が急激すぎて引き起こされた点で、移行リスクの顕在化例と言えます。

 マクロン政権による地球温暖化対策強化は、パリ協定以来、気候変動対策で世界を主導していこうとするフランス政府の意欲の具体化でした。パリ協定の目指す1.5℃目標や、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)が求める「大胆な変革」の観点からは、現状の延長線上の生ぬるい対策だけでは目的は達成できません。マクロン政権が「今すぐ、ここまでやらないと手遅れになる」というレベルの政策強化を行うことは妥当であり、評価されるべきものでした。しかし、足もとで深刻化していた格差問題への配慮が足りなかったために、結局増税は延期に追い込まれてしまいました。「性急な政策変更」がもたらす「移行リスク」という現実からの学びは貴重なものとなったはすです。マクロン政権は、気候変動対策のあり方を含め国民との話し合いを行うことを約束しましたが、今後、気候変動対策が低所得層等の生活にとってもプラスになるという理解を得られるかがカギと考えられます。理解を得ることができれば、「大胆な変革に伴う痛みを最小限に抑えて、持続可能な世界に貢献した」政治家として、マクロン氏は歴史に名を残すことができるでしょう。
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