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EUのサステナブル・ファイナンス法制整備はグリーンボンド市場をどう変えるか

2019年01月25日 川上 千代子


 2015年にパリ協定が採択されて以降、EUではサステナブル・ファイナンス(持続可能な社会を実現するためのファイナンス)を推進するための積極的な施策が講じられている。大きな動きとしては、2018年1月にサステナブル・ファイナンスに関するハイレベル専門家グループ(HLEG: EU High-Level Expert Group on Sustainable Finance)の最終報告書で8つの提言が公表されたことである。なかでもサステナビリティ・タクソノミーは、何がサステナブルな活動なのかを明確化するための分類システムを確立するもので、特に重要な提言として位置づけられている。これは、経済活動のうちサステナブルな社会の実現に貢献すると判断されるものを政府が明示するという世界でもこれまで類を見ないもので、18年12月に公表された最初の原案では該当する事業分類や適格基準が示された。例えば、既存建物の改修に関する事業分類では、エネルギー消費量またはCO2排出量を50%以上削減することが適格基準の一つとなっている。

 HLEGの提言を受けて、欧州委員会は、サステナビリティ・タクソノミーの構築や機関投資家等におけるサステナビリティ選好の義務・開示等を含む10項目に関するアクションプランを採択し、そのうち4項目の規制化を目指しているところでサステナビリティ・タクソノミーの構築も対象となっている。今後、欧州委員会は2019年第2四半期までに気候変動の緩和と適応に関するタクソノミーのパブリックコンサルテーションを終え、2019年末までに規則化の採択を目指すという。こうした動きは、グリーンウォッシュ・ボンド(※1)などの批判に対応するもので、投資家リスクが軽減されサステナブル・ファイナンスの拡大につながることが期待される。

 また、HLEGの提言にはEU独自のグリーンボンド基準を策定することも盛り込まれており、「EUグリーンボンド」と名乗るためには以下の要件を満たすことが示されている。

①調達資金の使途の一部もしくは全部が、今後採用されるEU サステナビリティ・タクソノミーに適合したもので、新規または既存のグリーン適格プロジェクトに充当またはリファイナンスされること
②グリーンボンドの発行書類(※2)において、EUグリーンボンド基準に適合していることが確認できること
③EUグリーンボンド基準に適合していることを、認定を取得した独立性を有する外部機関によって検証されていること

 HLEGの最終報告書の補足資料として、「グリーンボンドに関する非公式補足文書」が添付されており、上記②および③の「EUグリーンボンド基準」の詳細が記載されている。国際資本市場協会(ICMA)が制定しているグリーンボンド原則と同様に、①調達資金の使途、②プロジェクトの評価および選定のプロセス、③調達資金の管理、④レポーティングの4つの要素が示されているが、ICMAのグリーンボンド原則では推奨レベルに留まっている事項が義務化されている。例えば、リファイナンスに使用される割合の開示や外部レビューの実施は必須事項であり、上記③の通り、外部評価機関も認定を取得しなければならない。また、HLEGの報告書では、単に既存事業を資金使途としたグリーンボンドの存在や外部レビュー機関の検証能力・資質などの課題も挙げられており、今後、EUのグリーンボンド市場のガバナンス向上を目的としたGreen Bonds Technical Committeeの設立も予定されている。さらに、国際標準化機構(ISO: International Organization for Standardization)が進めているグリーンボンド基準を可能な限り採用し、グローバル基準との整合性を図ることも提言に含まれており今後の動向が注目される。

 EUのタクソノミーやグリーンボンド基準の確立によって日本のグリーンボンド市場はどのような影響を受けることになるのだろうか。外貨建ての発行などで欧州の投資家を対象とする場合は、EUのサステナビリティ・タクソノミーやEUグリーンボンド基準に適合した組成が求められるようになるかもしれない。また、EUグリーンボンドを購入する日本の機関投資家においてはグリーンボンドの質に対する目線が高くなる変化が生まれ、円建ての発行でもEU基準に沿った情報開示や検証レベルを求める動きが出てくる可能性もある。情報開示が進むとインパクトも比較しやすくなるため、環境効果の高いグリーンボンドを優先的に購入しようとする投資家サイドの取捨選択も生まれてこよう。一見、海の向こうの話に見えるが、EUにおけるサステナブル・ファイナンスの法令整備が日本のグリーンボンド市場の質的向上につながる期待感も大きい。


(※1)実際は環境改善効果がない、または、調達資金が適正に環境事業に充当されていないにもかかわらず、グリーンボンドと称する債券(環境省グリーンボンド発行促進プラットフォームより引用)

(※2)2019年第2四半期に、目録書の内容に関する委任法令の採択が予定されている(欧州委員会ウェブサイトより引用)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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