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アジア・マンスリー 2019年2月号

中国からの資本流出の減少と債券市場の開放

2019年01月24日 清水聡


中国からの資本流出は減少したが、流出規制の緩和は慎重に進める必要がある。対内株式・債券投資の規制緩和は資本流入の拡大に結び付いているが、グローバルな金融リスクの波及への備えも不可欠である。

■2017年以降、資本流出は大幅に減少
近年、人民元の対ドルレートの減価が続くなかで中国からの資本流出が加速した。中国では長年、経常収支黒字と、外貨準備以外の金融収支の流入超過が続き、それに伴う人民元高圧力を外貨準備の増加(海外資産への投資増)で吸収してきた。しかし、経常収支は輸出減・輸入増による貿易収支の悪化や中国人の海外旅行の増加によるサービス収支の悪化により次第に黒字が減少し、2018年(1~9月)には赤字に転じた(右表)。一方、外貨準備以外の金融収支は、2014年に若干の流出超過となった後、2015~16年には流出超過が大きく拡大した。これを受け、2016年半ば以降、資本流出規制が強化され、その結果、対外直接投資やその他投資の流出が大幅に減少し、2017年には外貨準備以外の金融収支全体が流入超過に戻った。金融収支に関しては、証券投資(特に債券投資)の流入が急拡大していることも特徴的である。後述する通り、これには対内株式・債券投資に関する規制緩和の進展が寄与しているとみられる。

また、資本逃避を反映しているといわれる誤差脱漏は2015~2017年に高水準であったが、2018年にはそれ以前の水準に戻りつつある。これに関しては、資本逃避に対する取り締まりの強化が奏功している可能性も考えられよう。

以上の動向を受け、外貨準備は2017年以降、再び増加に転じた。その金額はピーク時の2014年半ばには約4兆ドルとなったが、人民元の対ドルレートの減価とともに減少し、2017年1月には3兆ドルを割り込んだ。その後はやや回復し、2018年11月には3兆617億ドルとなっている。IMFは、為替制度が自由変動相場制ではないことや一定の資本取引規制が残されていることを考慮し、中国の外貨準備は適正水準を上回ると判断している。

■資本流出規制の緩和は慎重に進める必要
資本流出規制は、2017年半ば以降、緩和方向にある。具体的には以下の通りである。①2017年12月、対外投資スキームであるQDLP(適格国内有限責任組合)制度が2年ぶりに再開された。②2018年3月、対外直接投資(ODI)に対する規制が緩和された。これは、非センシティブ分野における10億ドルを超える投資に関する認可を不要とする措置などを含む。③2018年4月、対外投資スキームであるQDII(適格国内機関投資家)制度の投資限度額が3年ぶりに引き上げられた。④2018年6月、対内投資スキームであるQFII(適格海外機関投資家)制度およびRQFII(人民元適格海外機関投資家)制度に関連した資本流出取引(本国送金など)の規制が緩和された。

しかし、米中貿易摩擦の激化などによる中国経済の一段の減速、人民元の対ドルレートや株価の下落などを受けて資本流出圧力が再燃する可能性があるため、流出規制の緩和は慎重に進めなければならない。人民元の対ドルレートは2017年初に増価に転じたが、2018年4月以降は再び減価した。減価は米国の利上げによる米中金利差の縮小が基本的な原因であるが、当局が人民元安を容認しているという見方もある。人民元の減価と資本流出の悪循環が再来する懸念もないとはいい切れず、為替政策運営は的確に行う必要があろう。長期的な観点からみても、市場ルールに対する当局の多様な介入が残っており、国内金融システムの成熟や金利・為替レートの完全自由化といった資本取引自由化の前提条件は整っていないため、規制緩和は容易には進められない。

■対内株式・債券投資に関する規制緩和が進展
一方、資本流入面では、対内株式・債券投資に関する規制緩和が行われ、海外投資家の参加を促している。株式市場ではストック・コネクト(2014年11月に上海・香港間、2016年12月に深圳・香港間で開始)、MSCI新興国株価指数へのA株の組み入れ(2017年6月に決定、1年後に実施)などが行われた。MSCIのようなベンチマーク・インデックスへの組み入れは、海外投資家の拡大に極めて有効である。一方、債券市場では2015年7月以降、銀行間債券市場(CIBM)に参加できる投資家が段階的に拡大され、2017年7月にはCIBMと香港債券市場を結ぶボンド・コネクトが開始された。この制度の下では、投資家は本土で口座開設を行う必要がなく、香港の決済システムを通じてCIBMに投資できる。既存のQFII、RQFII、CIBMダイレクト(2015年7月以降に導入されたCIBMへの投資制度)に、新たな選択肢が加わった。

こうしたなか、前述の通り、債券市場への資本流入が急増している。債券市場の海外投資家比率は、2017年末の1.6%から2018年7月には3%に上昇した。海外投資家の増加は、投資家ベースの多様化、市場流動性の改善、市場の成熟度・透明性の向上などをもたらす。ただし、増加を持続的なものとするには、長期金利や為替レートの安定、市場の健全性の向上、規制や市場インフラの国際標準化、多様な市場リスクヘッジ手段やレポ取引の整備などに取り組まなければならない。また、海外投資家比率が上昇すれば米国の金融政策などのグローバル要因の影響をより強く受けることになるため、金融安定への配慮を強化することも不可欠となる。

ちなみに、人民元の国際化政策は人民元の減価や資本流出規制の強化などを受けて大幅に後退したが、世界の外貨準備に占める人民元の比率をみると、2016年末の1.07%から2018年6月には1.84%に上昇している。中国の株式・債券市場に対する海外からの投資の増加が、一帯一路構想の進展などとともに、人民元の国際化を再び進めるための突破口となる可能性もあろう。ただし、自由変動相場制の採用などの市場ルールの貫徹には、長い年月がかかることに注意しておかなければならない。
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