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財務・経理担当者が果たすサステナビリティ経営への貢献

2019年01月10日 三澤 祐太朗


 グリーンボンド(注1)は普通社債より発行体にとって有利なスプレッドで発行されているというBIS(国際決済銀行、Bank for International Settlements)の研究結果(注2)がある。その差は平均で約18bp(basis point, 1bp=0.01%)あるとしており、仮に100億円を起債した場合には毎年1,800万円の金利負担の減少となる。これはグリーンボンド発行に係る追加費用(外部機関によるレビュー、調達資金の分別管理、資金使途の報告等)をカバーするに充分な水準であり、グリーンボンドを選択肢として検討中の発行体の財務・経理担当者には朗報と言えよう。さらにそのグリーンボンドに対するプレミアム(グリーンプレミアム)は信用リスクが中程度(投資適格格付けの下位、A~BBBに相当)のグリーンボンドでもっとも大きく、44bp前後であるという。残念ながら投機的格付けとされるBB以下の債券に関するデータはなく、またデータソースは普通債と比較可能なグリーンボンド21件(米ドル建てまたはユーロ建て)のみであるため統計的に有意とは言い切れない。それでも、この研究結果は信用リスクの低い債券ほど「グリーン」ラベルが信用リスクの補完を果せるという可能性を示している。利率の高いグリーンボンドに対して投資家の需要が旺盛であることの示唆とも解釈でき、さらに言い換えれば「グリーン」であれば投資家は多少のリスクには目をつぶってくれそうなのである。

 2018年末から2019年始にかけて世界の金融マーケットが荒れ模様となった。10年以上続いた金融緩和が引き起こした「債券バブル」がはじけ、金利が急騰(債券価格は急落)するリスクが警戒されている。香港のGavekal Research社は、世界の人口動態の変化で貯蓄性向が急速に低下する2020年以降、大幅な金利の上昇(と株価の下落)が起こる可能性があるとしている(注3)。金利の上昇局面での起債は、ベース金利の上昇とスプレッドの拡大の両面から資金調達コストの上昇に見舞われる。さらに環境が悪化すると希望調達額を満たすだけの投資需要が集まらず、調達額の縮小または起債の取りやめで資金調達に支障をきたすこともあり、直接金融を担う債券市場が機能不全に陥る。代替として必要資金の確保を融資に頼ることもあるだろうが、このような状況下でグリーンボンドが救世主となるかもしれない。

 前述の通り、グリーンボンドにはグリーンプレミアムでスプレッドを抑える効果が見られる。金利上昇時には業績の悪化(と株価の下落)を伴うケースが多く、信用力(格付け)が低下する傾向が生まれる。その際に「グリーン」ラベルはスプレッドの拡大、さらには資金調達コストの増大を抑制する方向に働く。また、貯蓄ブームの終焉でマーケット全体への資金流入の縮小が懸念されるが、ESG投資に向けられる資金は依然として拡大を続けていくと見込まれており、より幅広い投資家から投資資金を集めやすい。グリーンボンドが普通債では難しい状況でも必要な資金調達を可能とし、発行体の資金調達戦略に柔軟性をもたらす選択肢となり得る。
 
 グリーンボンドを用いた資金調達には、上記の具体的なメリットに加えて、自社の環境改善効果のある新規または既存事業(グリーンプロジェクト)を整理して、社内外のステークホルダーに対して自社の環境事業(および環境投資)、ひいてはサステナビリティ経営(注4)を認知・浸透させる効果がある。これまでサステナビリティ経営というとCSR部門、経営企画部門、またはIR部門が推進する活動と位置づけられてきた。事業と密接に結びついたものばかりではなく、社会貢献の域を出ないケースも少なからずあった。グリーンボンド発行で事業を通じた環境問題への取り組みと投資状況を明らかにすることは、サステナビリティ経営を深化させる。「自社では資金調達を伴うような新規事業はない」というケースも多いと想定されるが、新規である必要はない。実際にグリーンボンドの使途は既存事業のリファイナンスが多数を占めることに加え、借り換え時こそが財務・経理担当者の主役としての出番である。ただのリファイナンスで終わってしまってはもったいない。社内に埋もれているグリーンプロジェクトを掘り起こし、その投資状況と環境に対する取り組みに日の目を当て、今ある姿を社内外に伝えること自体が社会ならびに自社への大きな貢献になると考えるが、いかがだろうか。

(注1) グリーンボンドとは、気候変動・水・生物多様性対策など、環境に好影響を及ぼす事業活動に資金使途を限定した債券(社債・地方債・国際機関債等)のことを指す。

(注2) BISのリサーチレポート

(注3) Gavekal Research

(注4) サステナビリティは、「持続可能性(sustainability)」を意味する。サステナビリティ経営は、現在の経済的発展(利益)を追い求めるだけでなく、将来においても事業が存続する可能性を高めるため、広く社会や地球環境に対する責任を果たすと共に積極的に貢献する経営方針を指す。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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