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海外面的開発における公的支援・関与への期待(3)

2018年12月11日 中村恭一郎


 これまで、東南アジアや中国での面的開発で期待される公的支援・関与は、(1)現地情報収集における公的支援・関与、(2)現地との合意形成における公的支援・関与、(3)開発予算の確保における公的支援・関与の3つであると考えられることと、「(1)現地情報収集」における課題ならびに期待される具体的な公的支援・関与の内容について述べました。今回は、「(2)現地との合意形成」、「(3)開発予算の確保」について、課題および解決策としての公的支援・関与のあり方を論じたいと思います。

 最初は、現地との合意形成についてです。面的開発では、国、地方政府、地域住民、現地企業など多様な現地側ステークホルダーとの間で、様々な検討事項について合意形成を積み重ねていく必要があります。そのためには、前回取り上げたように現地側の意思決定者を明確に把握することが最も重要です。その上で、そうしたキーパーソンが出席する合意形成の場(会議)を確実に設定していくことが欠かせません。

 この「会議の設定」は、恐らく、一般に想像されるよりも難しいものといえます。担当者同士で検討を深める会議だけでなく、定期的に意思決定をする会議が必要ですし、場合によっては相手組織の他部門に出席してもらう会議などの開催が必要になるかもしれません。ITを活用することで解決できる部分もありますが、国や地方政府を相手とする場合は、依然として限られた出張機会に確実に会議を設定していく必要があります。意思決定を担うキーパーソンは職位が高く多忙であることが一般的で、会議に急遽出席できなくなるということもしばしばです。なかには、結局プロジェクトの最終報告会になって初めて意思決定者と顔を合わせたというケースもあります。

 私は、現地との合意形成に関する公的関与・支援としては、相手国の意思決定者の職位に対応した日本側担当者が継続的に会議に出席することが最も効果的だと考えています。プロジェクトの初期段階で、必要な会議の種類、各々の会議の役割や想定メンバーを日本側から提案しておくことが良いでしょう。その際、現地日本大使館や日本政府関係機関の協力をあらかじめ得て、日本側から先行して“どの会議に、どの職位の、誰が出席してほしいのか”を明確に示すことです。こちらが民間企業コンソーシアムの場合には現地のキーパーソンに「すっぽかされてしまう」懸念が常にありますが、日本政府関係者が会議に出席することで、その可能性は格段に低くなるでしょう。現地側の高位の意思決定者に会議へ出席してもらうには、そうした“仕掛け”が有効なのです。

 次に、開発予算の確保について述べましょう。面的開発の全体構想やビジョンが固まってくると、それを基にしていわゆる“マスタープラン”が策定されるのが一般的です。続いて、このマスタープランを実現するために、分野別であったり、エリア別であったりの個別計画が作られ、その後に、いよいよ具体的な“プロジェクト”が見えてきます。

 この段階の課題が、プロジェクトを実行する予算の確保です。特に、自前で面的開発を進めた経験に乏しい新興国政府の場合には、計画を作るための予算は措置されていても、プロジェクト実行・実装のための予算は措置されていないケースがよくあります。これは、そもそも計画策定の中で、どの段階で、どの程度の具体性を持ってプロジェクトが浮かび上がってくるのか、現地側にイメージがないことに起因します。あるいは、そもそも他国からの資金的支援を前提に考えているというケースも存在します。

 開発予算の確保に関する公的関与・支援としては、現地側での予算化意向の有無、現地の予算化プロセスやスケジュールを、プロジェクトの初期段階でG to Gのチャネルを通じて把握することが有効です。これも、民間企業コンソーシアム単独では必ずしも容易ではない領域です。民間企業側が面的開発プロジェクトを進める際のマイルストーン一覧や全体スケジュールの案を作り、公(政府)の側で把握した現地の予算化プロセスやスケジュールと照らし合わせた上で、現地側に提案を行う“官民の連携プレー”が必要になってきます。

 さらに、日本側の公的資金活用に期待するという現地ステークホルダーもいることでしょう。面的開発プロジェクトの検討において、資金メニューの検討、提案はしばしば計画策定後半のタスクになりがちですが、私は、これもプロジェクトの初期段階に提示しておくべきと考えています。面的開発プロジェクトに活用し得る日本側の資金メニューは既に定型化されており、10年、20年の期間では新しいメニューが加わることはあっても、頻繁に変化するものではありません。

 私の経験では、日本側の資金メニューの名称は知っていても、どのような条件を満たせば活用できるのかに詳しい現地側ステークホルダーはなかなか見かけません。多国間が協働する面的開発プロジェクトではフェアな資金分担・資金負担が重要です。日本側の資金活用の“条件”をG to Gのチャネルや会議の場で具体的に示すことが、現地側に個々のプロジェクトの優先順位や自らの資金負担を本気で検討してもらうことにつながります。

 これまで3回にわたって、海外、特に新興国における面的開発案件を念頭に、公的支援・関与への期待を述べてきました。読者にはいずれの打ち手もシンプルなものに映ったのではないでしょうか。同時に、現地政府(国・地方)に対して民間企業だけの力でこれらの打ち手を打っていくことがなかなか容易ではないことも想像していただけたのではないでしょうか。私は、自らの経験から、官と民とが上手に役割分担をすることが海外面的開発プロジェクトの立ち上げ、推進において非常に大切であると考えています。本テーマには引き続き注力すると同時に、今後は、日本ばかりでなく第三国と協力して面的開発やインフラプロジェクトを立ち上げるといった最近の新しい枠組みについても研究とプロジェクト化に取り組んでいきたいと考えています。



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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