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JRIレビュー Vol.9,No.70

【特集 実装段階に入った社会・経済のデジタル変革】
デジタル変革がもたらす顧客価値創造の在り方の転換とわが国企業の課題

2019年08月08日 田谷洋一


データを経営資源として新たな価値創造を追求するデジタル変革が進展するなか、わが国では消費関連分野において企業がデータを活用した様々なビジネスモデルの創出に取り組んでいる。近年の情報通信技術の進展を背景に消費者のニーズは多様化の一途をたどっており、従来のセグメンテーションの細分化では対応に限界が見えてきている。このようななか、ビッグデータや人工知能(AI)の実用化により、企業が消費者に関する様々な情報を取得し、個々の消費者の「状況」に応じて価値を提供する取り組みが始まりつつある。デジタル変革後の世界においては、個々の消費者の「状況」に応じた価値創造の実現可能性が一段と高まるとみられる。

デジタル変革後の世界は、生産者が消費者の「状況」を詳細に把握し、消費者が何を必要としているかを認識できる「顕名経済圏」が拡大すると考えられる。そのような環境においては、企業は消費者に対する関係を、これまでの商品販売時点だけの売り切りの関係から、最適な価値を継続的に提供する関係へと変化させる必要がある。デジタル変革を推進する先進企業は、長期的な関係を構築して消費者の「状況」を把握することに注力し、新たな顧客価値を創造する施策に取り組んでいる。

企業が「状況」を把握するためには消費者に関連する様々なデータが必要となるが、その円滑な収集・活用には、消費者の理解が不可欠である。データを提供して得られる消費者のメリットを示すと共に、企業においてはデータ利活用に向けた方針やルールの整備が求められる。また、IT活用の目的を効率化やコスト削減に限定するのではなく、新たな顧客価値の創造の実現へと発展させることが必要となるが、その実現には企業内の組織変革も必要となろう。データを起点とした新たな価値創造では、いかに消費者の日常生活に密着してローカルな知識を蓄積できるかが鍵となる。

個人情報保護の規制が強いわが国においては、デジタル変革を通じて「顕名経済圏」を拡大することが容易でないようにも思われる。しかし、近年、改正個人情報保護法や情報銀行制度の導入など、企業の個人情報活用を後押しする動きが進んでいるほか、欧州のGDPRに倣って、わが国においても個人がデータをコントロールできる権利を有する考え方が広がっている。このような状況が進展すれば、データ活用と共に消費者の信頼を確保する仕組み作りが促進され、企業がデータを活用する可能性が今後大きく拡大すると考えられる。企業が個人データを活用するうえでは、消費者の信頼を獲得することが鍵になろう。
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