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未来洞察と長期経営ビジョン策定(下)

2018年08月10日 時吉康範


■長期経営ビジョン策定は企業トップの仕事なのか?
 
 コラムの前半では、長期経営ビジョンの構成要素を示した。
 3~5年後の中期経営計画ならまだしも、10年、30年後といった長い時間軸に向けた「企業のあるべき姿」「ありたい姿」として、表中のビジョン(定量・定性)を問うても直接的に答えられる経営幹部は多くはない。
 では、ビジョン策定は企業トップである社長(会長)の専権事項なのか?
 感覚的に50~70%はそうだと思う。ビジョンの多くは「経営の想い」なのだから、トップがビジョンを持っていないとすれば、彼・彼女がトップにいる資格も、その企業が長期経営ビジョンを作る資格もない。ただし、「トップのビジョンだけでは不足している」と考える次第である。
 実は、トップの発した文言をブレークダウンして長期経営ビジョンのストーリー性を満たそうとする企業も多い。しかし、ブレークダウンしているだけだから、体裁とストーリーは(デザイナーやコンサルタントによって)よくできていても、既存の事業ポートフォリオの延長線でしかない長期経営ビジョンが出来上がる。

■長期経営ビジョン策定のステップと策定の担い手

 長期経営ビジョン策定のステップを図表に示す。
 横方向は左から右に策定ステップ、縦方向は下から上にタスクに求められる具体・抽象度を表している。一般的な中期経営計画は、STEP1.これまでの振り返り、STEP2.経営・事業環境分析としての線形業界予測や自社分析を行ったのち、右方向にスライドし、STEP8.中期的施策への落とし込み、STEP9.数値化・KPI作成に進み完成する。

長期経営ビジョン策定のステップ


出所:日本総研作成


 「トップの発した文言をブレークダウン」する進め方は、STEP5からスタートして、6→7・・・と落とし込んでいくことである。
 長期経営ビジョン策定は「トップのビジョンだけでは不足している」と前述したが、図表から分かるように、その不足とは、STEP3.視野拡張とSTEP4.発散:多数の施策案の2点である。
 これらは長期経営ビジョンの構成要素の「未来観」に直結している。未来観は、線形・非線形予測情報に基づいて外的環境を認識・表現する10年後、30年後の社会・産業などの「未来像」と、「自社のあり方」すなわち、未来像が顕在化した際の「自社がやるべき・やりたいこと」「自社のあるべき・ありたい姿」の2つからなる。この未来観は、ビジョン(定量・定性)と事業ポートフォリオをつなぐ役割を担っていることから、未来観の考察のレベルがそのまま長期経営ビジョンの出来不出来に直結する。
 では、未来観の策定と未来観を創出するタスク(STEP3.および4.)も企業トップである社長(会長)の専権事項なのか?トップからすれば「経営幹部や経営企画部門で考えろ」となるに違いない。

■未来観を創出するタスクのポイント

 時間軸が10年後、30年後と長くなると現在の事業環境の延長線では未来像が描けず、その結果として自社のあり方もピンと来ないものになりがちである。
 そこで、STEP3.視野拡張では、情報の多様性と量の確保と視点の拡張が重要になる。現在の事業と関連性が高い産業・業界の線形予測情報に加えて、日常業務には関係ないと普段は接しようとしていない領域や媒体にある情報を大量に準備することがまずは大切。そのうえで、参加者みんなで読み込んだのち、未来はどのようになっているだろうかと発想・討議する場の設計と運営がカギになる。
 STEP4.発散:多数の施策案では、自社が「やるべき」「やれる」ことに限定せず、「やってみたい」「やれそうな」ことといったある種の妄想も否定せず、とにかくたくさんの具体的な施策案を出すように促す場を設計し、運営する。そして、たくさんの施策案を編集・統合して、より太い案に収斂していく。
 これらのアウトプットを活用し、STEP5.長期経営ビジョンでは、経営の想いと現場のアイデアの融合することを試みる。
 一方、このSTEP3.と4.はブレークダウンプロセスの実効性を上げ、負荷を軽減する効果がある。
 STEP6.基本戦略案は、STEP4.で発散思考によって現場が創発した多数の具体的なアイデアがあることで、STEP5.のビジョンを多様に受け止められる幅と具体性を持たせることが可能になる。
 STEP7.全社浸透は、作り手側が強く意識するところなのだが、STEP3.および4.のビジョン策定の工程から様々な現場の人々を巻き込むことで、浸透工程≒策定工程とすることが可能になる。

 この未来観のピースを埋めるタスクこそが、「方法としての未来」への大企業の期待であり、方法としての未来洞察への相談ごとである。わが国の大企業がnext100に向けて、何を考え、何を実現したいのかを、社内外にきちんと伝えられるよう願う次第である。

 なお、今回書いていない長期経営ビジョン策定のポイントには「レベル感」がある。
 自社らしさの明文化、自社にふさわしい目線の高い内容と表現等々である。
 これは次の機会にでも。

以上



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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