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男性が育児休業を取れる企業は元気か

2018年10月10日 村上芽


 2017年から三井住友銀行が提供している「SMBC働き方改革融資/私募債」は、借り入れを行う企業の働き方改革の状況を、日本総研と同行とで作成した基準に基づき診断し、今後の推進を支援しようとする金融商品である。筆者は関西の企業を中心に、診断業務に携わっている。調査票を手に実際に企業と面談をする中で、「この企業は元気だな」と感じる共通項が、男性の育児休業に関することである。

 育児休業は、育児・介護休業法が定める、1歳未満の子を養育する労働者が男女ともに取得できる休業である。厚生労働省の「平成29年度雇用均等基本調査」によると、育児休業の取得割合は、女性83.2%、男性5.14%だった。平成27年度調査では男性の取得率が2.65%だったことからすれば、2年で倍近くに増えたともいえるが、いまだに20人に1人にとどまっている、という方が適切に思える。事業所規模別にみると、5~29人が最も高く6.13%、30~99人が最も低く3.06%だった。産業別にみると、高いのは「金融業、保険業」の15.76%、「情報通信業」の12.78%、低いのは「生活関連サービス業、娯楽業」や「サービス業(他に分類されないもの)」で1%台だった。

 男性の育児休業取得者が実際、何日間の休業を取得しているかについては、直近の平成29年度調査では対象にはなっていないため、男性の取得率が2.65%だった平成27年度調査を引用せざるを得ない。調査結果は「5日未満」が最も多く56.9%、「5日~1カ月未満」が26.2%、「1カ月~3カ月未満」が12.1%と、1カ月未満までで83.1%、3カ月未満までで95.6%を占めた。相対的に長期の取得が見られた業種(「5日未満」が最も多くない業種)は、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「サービス業(他に分類されないもの)」だった。

 このように、日本の育児休業は、北欧諸国やドイツ、フランスなどに比べて、取得率は低く期間も短いのが現状である。育児休業の社内規定は、30人以上では9割以上の企業で整備されているものの、30人未満の企業で71%しか整備されていない。しかも、書面による規定が存在していても、認知度・理解度についてはおそらく高いとは言えないだろう。働き方改革に関心のある企業でも、話を伺ってみると男性の育児休業については「法律で取れるとは知っているが」といった反応になってしまうことも少なくない。そもそも、社内には独身者が多く対象者がほとんどいないというケースもある。

 ただ、中には、男性の育休取得推進に伴う効果として、①若手世代の満足度向上、②育児に携わることによって得られる経験や業務へのインスピレーション、③周囲の女性従業員からの共感などを紹介すると、「面白そうだから、進めてみようか」という企業が一定数現れる。働き方改革に取り組む企業だけに、「他社がやっていないことを1つでもやって、採用時の差別化を図りたい」という考えは旺盛である。まだ社会全体で進んでいない男性の育児休業こそ、格好の切り口になると判断されるのだろう。弊社からの提案と自社の現状を照らし合わせて「早速考えよう」とする企業もある。

 男性の育児休業取得をはじめとする育児参加が、どのような定量的な効果を持ち得るのか(例えば妻のキャリア促進につながるか、2人以上子を持つ夫婦を増やすのかなど)についても、少しずつ研究事例が出てきたところである。筆者も、「男性もしっかり育児できる企業ほど元気」という経験則を公式に昇華させていきたいと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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