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アジア・マンスリー 2018年7月号

わが国におけるインド人労働者受け入れの現状と展望

2018年06月20日 熊谷章太郎


これまでわが国のインド人労働者の受け入れは限られてきた。しかし、インド・日本双方の環境変化を背景に、在日インド人労働者は今後増加すると見込まれる。

■日本で急増するアジアからの労働者
人手不足などを背景に、わが国の外国人労働者が急増している。2014年に約79万人だった外国人労働者は、2017年に128万人と過去最高の水準に達した。近年の外国人労働者の増加は、主にベトナム、中国、フィリピン、ネパールなどからの技能実習生や留学生のアルバイトによるものである。中国や東南アジアからの労働者の受け入れが進む一方、世界最大の労働者の送り出し国であるインドからの受け入れには大きな変化は見られない。
 
■日本でインド人労働者が限られる理由
インド人労働者の受け入れが限られる理由としては、インド人労働者の送出・受入環境が整備されていないことに加え、日本で就労する魅力が乏しいことを指摘できる。低スキルの労働者を取り巻く環境をみると、インド人労働者の多くが地理的・文化的に近いUAE、サウジアラビア、オマーンなどの中東や、米国、英国、豪州、シンガポールといった英語圏で就労している。また、わが国が技能実習生を除いて低スキルの労働者の受け入れを原則認めていないことや、同制度の認定送り出し機関のインドでの設置が遅れていることも、インド人労働者の受け入れの制約要因となっている。 

一方、高度人材やそれらの予備軍とも位置付けられる留学生は、米国を中心に英語圏での就職・留学を強く指向している。わが国はIT分野などを中心にインド人高度人材の誘致を目指しているものの、日本での就労に際して要求される高い日本語能力、不透明な昇進制度や日本独特の企業文化、子弟の教育環境の未整備などが制約要因となっている。こうしたことから、在日インド人は3万人程度と在日アジア人の中でも少ない水準にとどまっている。なお、地理的な遠さや食事上の制約も、インド人の受け入れが進まない要因になりうるが、インドと地理的・文化的も近いネパールからの留学生や技能実習生が近年急増していることを踏まえると、これらは主たる阻害要因であるとは言いがたい。

■インド人労働者の送出・受入環境は近年大きく変化
しかし、先行きについては、以下を踏まえると、インド人労働者がわが国を目指す動きが強まると見込まれる。まず、低スキル労働者については、2017年10月に締結された技能実習制度に関する日印間の協力覚書を受けて、認定送り出し機関が設置された。インド側は2018年半ばを目処に、団体管理型では初の実習生の派遣を行なうことを目指している。また、2015~2016年の資源価格の急落を背景に、これまで低スキルのインド人労働者の主たる受入国であった産油国の労働需要が低迷していることも、日本での就労を後押しする要因になるだろう。他方、わが国では2020年の東京五輪・パラリンピックを控えたインフラ整備・都市開発需要や急速な高齢化などを背景に、建設業や介護などを中心に人手不足が続いている。インドのメンドラ・プラダン技能開発・起業促進大臣も、今後30万人の実習生の派遣を目指すと述べている。

高度人材についても、わが国がポイント制度の整備など、受入促進に向けた体制強化に取り組む一方、欧米は移民受入を厳格化する方向にあり、欧米で就業することが困難なインド人労働者が日本での就職を検討する動きが今後強まるだろう。インド人高度人材の最大の受入国である米国では、高度な専門知識を有する労働者向けの査証である「H1-B」ビザの発給がトランプ政権発足後から抑制傾向にあり、2017年の発給数は前年を下回った。このうち7割強を占めるインド人向けは小幅増加しているものの、同ビザの発給厳格化はインド人労働者の就業国の選択行動に大きな影響を与える。

こうした環境変化は、高度人材を中心に、わが国が求める人材を誘致する好機である。また、インド人労働者の受入拡大は、国内の人手不足解消だけでなく、わが国企業での就労経験のあるインド人を活用したインドでの事業展開促進や在日インド人への訪問を目的としたインド人訪日観光客の誘致などにもつながる。ただし、アジア各国が人口減少社会に突入するなか、グローバルな人材獲得競争が激化しつつあることには留意すべきである。そのため、わが国が外国人受け入れの是非を巡る入口の議論に終始し、受入環境の整備が進まない場合、高度人材を中心にインド人労働者は日本以外に向かう可能性も十分ある。今後も人口増加が続き、労働者や観光国の送出国として極めて高いポテンシャルを維持し続けると見込まれるインドと人材交流を深化させるためには、わが国が適切な受入体制の整備を早急に進める必要がある。
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