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日本総研ニュースレター 2018年3月号

中国発・IT 企業による自動車業界へのインパクト第二幕

2018年03月01日 程塚正史


自動車関連メーカーとIT企業の競争と共創
 自動車産業が今後「サービス化」に向かうとの声を否定する向きは少ない。モノとしての車両を供給するだけでなく、移動行為自体、さらには価値ある体験としての移動行為の提供が今後は主な収益源になるとの趣旨だ。
 2010年代半ば以降、自動車関連メーカーはIT企業や関連ベンチャーとの連携を急速に強化している。契機となったのは、2014年にグーグル(現アルファベットグループのウェイモ)が、自動運転車両による累計走行距離が100万マイル(約160万km)を超えたと発表したことであった。この発表によって、自動運転技術やコネクテッドサービスが今後のモビリティサービスの鍵を握ると確信されるようになった。そして当時は、IT企業が自動車産業に参入し、支配し、いずれ傘下に収めると予想する声も大きく聞かれた。
 しかし現在では、先進国のIT企業と完成車メーカーは半導体メーカーも交えた様々なパートナーシップを結び、役割分担も整理されつつある。概ね、モノづくりは自動車業界のメーカー、データセンシングは半導体メーカー、データ活用はIT企業という棲み分けだ。

中国でのIT企業起点による設計と製造の分離
 中国でもIT企業の自動車関連産業への参入が進む。業界間の力関係は日欧よりも米国に近い。つまり株式時価総額は自動車メーカーよりIT企業の方が圧倒的に大きく、次世代サービスへの投資余力や技術力の差も歴然としている。例えば、自動運転の実現に向けたアライアンス「アポロ計画」を主導するのは完成車メーカーではなくバイドゥだ。
 しかも、これらの企業は、米国のIT企業よりも「獰猛」かもしれない。つまり、日米欧で進む業界ごとの棲み分けとは異なり、中国のIT企業は、完成車メーカーの従来の役割を奪う形で業界構造に変化を加えようとしている。
 その象徴が、テンセントやバイドゥなどIT企業が出資する“NIO”だ。NIOは最初の車両“ES8”を2017年4月の上海モーターショーで発表したばかりの新興ブランドだ。 
 2018年半ばに販売を始める大型SUVのES8は、展示場では、44.8万元(約770万円)という高価格をはじめ、AIによる運転支援機能やデザイン性が強調される。しかし自動車業界の立場から最も注目すべきは、車両の設計のみをNIOが担当し、製造は中堅完成車メーカーに委託していることにある。つまりNIOは、BMWをはじめ各国の自動車関連企業からデザイナーを引き抜き、車両のデザインに特化して活動しようとしているのだ。
 パソコンなど電子機器や電気製品では盛んな設計と製造の分離が自動車業界で起きていないのは、製造工程がいわゆる「すり合わせ型」で、製造に関するノウハウがないと設計ができないからだ。また、使い方やアフターサービスについての知見が完成車メーカーに偏在することも大きい。そのため、完成車メーカーが設計し、製造し、アフターサービスまで行う一気通貫の構造が確立していた。
 しかし車両の電動化によって工程が比較的簡略化され「組み合わせ型」に近づいた。また、車両の使い方やサービスについても、グーグルやテンセントなどIT企業に知見が集まりつつある。
 設計に専念するNIOの登場は、これまでの業界構造が根本から転換しつつあることを示している。また、NIOだけでなく、威馬汽車や小鵬汽車といった新興企業もサービス化を踏まえた車両設計を始めている。グーグルの「100万マイル」発表後に議論された、自動車業界を傘下に置くIT業界、という構図が再び現実味を帯びつつある。

今後の自動車業界の変化
 NIOが目論み通りの販売数を達成できるのかはまだ分からない。だが、業界内の構造変化が活発化する兆しを見せ始めているのは確かだ。一般に、設計を担う企業は業界全体の戦略を主導する役割を担い、高い利益率を獲得する。グーグルなど米国のIT企業もNIO同様のポジションを狙う戦略を採る可能性は十分想定される。
 今や中国は業界変化の震源地だ。新たなサービスが生まれ、それを先導する事業者が既存企業の利益を奪う激しい競争が起きる。特に自動車業界とIT業界の競争が再燃することも予想されるなか、自動車を基幹産業とするわが国にとっても、サービス化を踏まえたモノづくりなど、自動車関連業界全体の戦略構想が急がれる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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