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アジア・マンスリー 2018年5月号

潮目の変化がみられるアジア新興国の金融政策

2018年04月23日 塚田雄太


これまでアジアの新興国の中央銀行は景気浮揚を目的に超緩和的な金融政策スタンスを採ってきた。しかし、足元では、一部の国々で金融政策の正常化に舵を切る動きが見られる。

■リーマンショック以降の利下げトレンドに変化の兆し
2017年冬から、アジア新興国の金融政策が大きく変化する兆しをみせている。リーマンショック以降、アジア新興国の政策金利は総じて利下げトレンドが続いてきた。これは、先進国景気の低迷や中国経済の構造転換、資源価格の下落、各国での経済構造改革の遅れなどを受け、これまでのアジア新興国の景気がリーマンショック前にみられたような安定した力強さを欠いていたことに起因している。このため、アジア新興国の中央銀行は、インフレ率の上昇で利上げに転じた局面はあるものの、総じて景気のテコ入れを目的に大幅な金融緩和スタンスを維持せざるを得なかった。2017年も7月にベトナム、8月にインド、インドネシア、9月に再度インドネシアが、利下げを実施した。

しかし、2017年冬以降になると、韓国とマレーシアが利上げを実施するなど、金融政策の潮目に変化がみられ始めている。韓国中銀は、2018年7~9月期の実質GDP成長率が+3.8%と3年半ぶりの水準まで高まったことや、IoTをはじめ世界的にIT関連投資が活発化するなかで先行きも半導体輸出が拡大基調を維持し、景気が安定的な回復トレンドをたどると判断し、2017年11月に政策金利を1.25%から1.50%に変更した。また、マレーシアでは、2016年には潜在成長率(+5.0%)を下回る成長ペースであったが、2017年入り後は輸出の持ち直しを主因に、潜在成長率を大きく上回る成長ペースに加速したことから、マレーシア中銀が政策金利を0.25%ポイント引き上げた。

■利上げの狙いは金融政策の正常化
ここで注目すべきなのは、韓国、マレーシアともに、インフレ率が必ずしも高まっているわけではなく、低位安定が続いているということにある。実際、2017年のアジア新興国のインフレ率は0%付近から高くても5%程度に収まっている。すなわち、今回の利上げは、インフレや資産バブルの抑制といった金融引き締めを目的としたものではなく、景気の安定的な回復が見通せるようになったタイミングで、これまで超緩和状態あった金融政策を正常化することに主眼が置かれている。なお、現在も、韓国中銀、マレーシア中銀は、ともに自らの政策金利水準が緩和的であるとの見方を崩していない。

このような金融政策の正常化へ動きは、韓国とマレーシアに限ったことではない。フィリピンや台湾でも、底堅い景気拡大を受け、近い将来、利上げに踏み切るとの見方が強まっている。また、タイでも2018年3月の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持に反対する意見が出たことから、今後利上げ圧力が強まるのではないかとの観測が出てきている。

■正常化は慎重なペースに
2018、2019年の選挙など政治日程を踏まえて先行きを展望すると、中銀は引き続き慎重なペースで金融政策の正常化をはかっていく公算が大きい。

もっとも、足元では、先行きの慎重なペースでの金融政策正常化の動きに対して、やや不透明な部分が出てきている。そもそも、アジア新興国の中央銀行が、金融政策の正常化を考える余裕を持つに至った背景としては、上で述べたようにインフレ率が比較的低水準で安定していたという点を無視できない。しかし、足元ではこの前提が崩れつつある。2018年入り後、原油価格は2017年の平均(53ドル/バレル)から約2割上昇し、66ドル/バレル付近で推移している。また、米国の景気拡大が順調に続くなかで、FRBによる利上げペースが想定よりも加速するとの見方が台頭してきている。利上げペースが想定よりも速まれば、アジア新興国通貨への減価圧力は一層高まりかねない。こうした事象が顕在化すれば、アジア新興国のインフレ率が高まり、景気の好調・不調にかかわらず、中央銀行は金融政策の正常化ではなく、インフレ抑制を狙いに利上げを実施せざるを得なくなるであろう。その場合、景気へのマイナス影響は避けられない。

アジア新興国が円満に金融政策の正常化を進め、景気の安定的な拡大を実現していくにあたっては、原油価格やFRBの利上げペースに十分注視していく必要があるだろう。
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