日本総研ニュースレター
スタジアム&アリーナ改革への期待
~新たなビジネスモデルでCOIの最大化を~
2017年12月01日 東一洋
スタジアム&アリーナ改革の動向と危惧
スポーツ施設の整備は他のインフラに比べ、これまで国や自治体の政策で劣後し続けてきた。しかし、いわゆるゴールデン・スポーツ・イヤーズと呼ばれる2019年から21年の間にラグビーW杯、東京五輪、ワールドマスターズゲームズが立て続けに開催されるなどによって、「会場整備」という大義が生まれたため、現在多くの自治体でスタジアムやアリーナの計画が動き始めている。
ただしこうした動きには、レガシーの問題がつきまとう。新国立競技場のレガシー利用に関する検討状況について指摘するまでもなく、わが国では「竣工」までは一大プロジェクトとして膨大なエネルギー(世間の注目、資金や民間の知恵も含む)が集まっても、竣工後の運営段階にはそのエネルギーが霧散してしまう。結局、所有者である公共団体が毎年少なくない税金を投入し「ハコモノ行政」とのそしりを受けることになるのである。
欧州における最新事例
先日、筆者はJリーグ主催の6カ国10施設を対象とした欧州視察に同行した。
サッカーが盛んな欧州でも自前のスタジアムを所有できるのはビッグクラブのみであり、多くの場合、スタジアムの所有者は自治体である。日本と大きく異なるのは、整備計画の期初段階から主たる利用者であるクラブが関与していることと、運営体がクラブのほか3セクやイベントプロモーターなどさまざまとなっていることである。
また、スタジアム・ファイナンスとしてはCOI(Contractual Obligated Income:契約上で金額・期間等が定められた収入)を特に重視しており、B2Bで収入を期初に確定させている。サッカーとメインスタンド内部での各種企業イベント開催会場としての活用を主な収益源としており、どのスタジアムもホスピタリティ・サービスが充実(試合前2時間+試合2時間+試合後2時間の計6時間を快適にスタジアム内で過ごせる施設・サービス提供)していたことが特徴的であった。
新たな期待~民間主導の動き~
日本でも最近は自治体ではなく、民間(主にプロ球団やプロモーターなどこれまでの施設利用者)主導のスタジアム・アリーナ計画が増加している。これまでも甲子園球場や東京ドームなどプロ野球用のスタジアムでの事例は多くあったが、新たな潮流を作り出したのは、ガンバ大阪の市立吹田サッカースタジアム(2018年からはパナソニックスタジアム吹田)であろう。施設整備費用を純粋民間寄付(一部TOTO補助金等)で賄って自治体に寄付する負担付寄付方式が採用され、ガンバ大阪は指定管理者として48年間にわたって運営管理を行う。スタジアム自体に吹田市の公金は一切使われていない。
スタジアム&アリーナ改革の推進に向けて
運営体にクラブが参画し、スタジアム収益の最大化=クラブの収益の最大化という双方にメリットがある運営スキームを実現するには、日本型の施設整備環境に応じて構築・実装することが重要となる。
日本総研が民間企業40社あまりと昨年度から実施している「稼ぐスタジアム・アリーナ研究会」で最も注目が集まるのは、欧州や米国で重視されるCOIの確保のための整備・運営方法についてである。その実現に欠かせない、「施設における“所有”“運営”“主たる使用者となるクラブ”の関係」、「ホスピタリティ・サービスの提供者」、「地域の経済界、企業とのネットワーク」、「ファウンディング・パートナー」などを総合的にまとめあげることについて議論が進められている。
筆者の考えるスタジアム・アリーナ改革とは、「いきいきとした健康的な地域社会があり、そのシンボルとしてスタジアムやアリーナが地域に長く愛され使われ続ける地域共通資産となること」である。それには、事業として成立することほか、関係業界各社が今一度自らのビジネスにおいて何をすべきかを熟考し、自治体側も公共施設を作る「成果」について、事後検証する行政文化を醸成させることが必要である。また、何よりも我々一人ひとりがスポーツに触れ、スポーツに関わることの意味について真摯に議論する文化づくりも併せて行うことが求められる。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。