コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2018年4月号

【トピックス】
中国における金融リスクの拡大と過剰信用・債務対策

2018年03月22日 清水聡


リーマン・ショック以降、中国では金融資産と金融リスクの大幅な拡大が生じている。マクロ政策の改善や企業・銀行改革の実施などにより、過剰信用・過剰債務の問題に取り組むことが不可欠である。

■金融システムの基本的な問題点と不安定化
中国の金融システムには、金融抑圧(人為的低金利、政府・国有企業・国有銀行の密接な関係、低利の政策融資など)が根強く残っている。また、政府の影響力が大きいことによる「暗黙の保証」の存在が、金融リスク(信用リスク、市場リスクなど)の過小評価をもたらしている。雇用確保のために脆弱な国有企業を存続させる政治的圧力が強いこと、個人投資家が金融市場の変動や金融取引による損失を嫌うことなどが、「暗黙の保証」の背景にある。地方政府においては雇用を維持して経済成長率目標を達成しなければならないという緊張感が一層強く、自由で公正な価格形成に不可欠な市場メカニズムはその犠牲になっているといえよう。

このような金融環境の下、リーマン・ショック以降、大規模な金融緩和が加わり、金融システムの急拡大や複雑化、シャドーバンキングの肥大化などが生じた。そのことにより、過剰信用・過剰債務や株価・不動産価格バブルなどの問題が拡大している。過剰債務は、脆弱な企業、地方政府融資平台(Local Government Financing Vehicles)、資金調達意欲が旺盛なノンバンク金融機関(Non-Bank Financial Institutions)などにおいて特に顕著である。また、対外投資を制限する資本流出規制が実施されていることもあり、高い貯蓄率と金融緩和が生み出した豊富な投資マネーが高利回り商品を求めて国内の金融市場間を動き回り、資産価格の変動を増幅させている。

■金融資産と金融リスクの大幅な拡大
金融資産の対GDP比率は、2011年の264%から2016年には466%に上昇した。2016年には、このうち銀行総資産が314%を占めている(2015年の平均は先進国283%、新興国95%)。特に伸びが著しいのは、株式制商業銀行などの中規模以下の銀行である。一方、保険会社や信託会社などのノンバンク金融機関の資産の対GDP比率は2011年の33.3%から2016年には152.7%に上昇するなど、拡大が目覚ましい。こうした中、金融機関の資金調達は総じて短期の銀行間信用や理財商品への依存度を高めており、流動性リスクが上昇した。

また、ノンバンク金融機関の信用は、主に銀行借り入れに上限を設けられた脆弱なセクターに向かっている。銀行に関しては金融安定を重視する当局の規制が厳しいことから、リスクの高い企業に対する信用創造は規制をあまり受けないその他の金融機関が担う結果となっている。その多くは銀行が自らの融資をリパッケージして信用リスクを他の金融機関に移そうとしたものであるが、銀行の関与の程度が不明であることなどが金融商品としての透明性を低下させ、正確な価格付けを困難にしている。結局のところ、現状は、経済成長が至上命題となる中、銀行規制を回避する形で信用が拡大した結果、金融システム全体の流動性リスクや信用リスクが高まった状況になっているといえよう。

■企業債務問題の現状
信用の急速な拡大に伴い、家計や非金融企業で債務が増加している。非金融企業の債務の対GDP比率は、2017年6月に163.4%に達した。この水準は、世界的にみても非常に高い。一般政府債務・家計債務と合わせた255.9%は多くの先進国よりも低いが、債務の合計額に占める企業債務の比率は63.9%と、これも国際比較すれば最高水準となっている。また、前述の通り金融資産に占める銀行のウェイトが低下しているため、2016年末の資金供給源の構成をみると銀行融資が61.3%となお最大ではあるが、シャドーバンキング(19.5%)や社債(15.5%)の比率が緩やかに上昇している。

拡大した信用は、主に景気刺激のためのインフラ投資や不動産投資などに充当されてきた。このことは、企業債務の業種別構成に反映されている。2016年末の構成比率はサービス業(除くリース業)22%、製造業20%、不動産業15%、公益事業14%、建設業12%、運輸業12%、鉱業5%であったが、不動産業以下の5業種は、それぞれのGDP構成比率を上回っている。また、債務は国有企業に集中しており、工業生産に占める割合では15~20%に過ぎない国有企業が企業債務の57%を占めている。国有企業の生産性は、民間企業の平均を25%下回っているとされる。

■過剰信用・過剰債務に対して求められる政策
以上のように大幅に拡大した信用の抑制や債務の削減は不可欠であり、そのための対策を以下に整理する。一部はすでに実施されているが、実効性の一層の向上が期待される。

第1に、マクロ政策の改善である。地方政府が高成長を最優先目標とせざるを得なくなるような中央政府の経済運営方法を変更するとともに、雇用や社会の安定を信用の拡大に依存する構造を変えなければならない。また、抑制された金利水準の引き上げも、信用需要の抑制につながる。

第2に、企業・銀行改革である。①企業債務のリストラクチャリングを行う体制を整備する。債務の株式化や債権者委員会に関するガイドラインがすでに発表されている。②存続不可能な企業を特定し、市場から退出させる。これには破産法の整備、社会的セーフティネットの構築、民間企業の市場参入の容認等が伴わなければならない。③全般的な国有企業改革によってその経営を改善し、非効率的な信用の拡大を抑制する。④企業倒産に備える目的からも、銀行の自己資本比率や流動性などのバッファーを強化する。銀行のティア1資本比率は2016年末に10.9%と、国際比較すれば決して高いとはいえない。なお、企業・銀行改革においては特に脆弱性の高いセクターに焦点を当てることが重要であることはいうまでもない。

第3に、金融規制監督の強化である。過剰な信用を抑制するマクロプルーデンス政策やシャドーバンキング規制を強化すべきことは当然であるが、金融システムの複雑化・不透明化を防ぐためには金融機関別ではなく金融機能別の規制監督により規制逃れを防ぐことがポイントとなる。また、銀行が信用リスクを他の金融機関に移すインセンティブの削減が求められる。具体的には、不良債権総額に上限を設ける行内ルールや、不良債権の処理責任を従業員に負担させる慣行などが指摘されている。さらに、規制監督当局の人員・予算面などの強化も課題となる。

第4に、政策融資の廃止や暗黙の保証の解消である。これらは社会・経済体制の根幹にかかわる問題であるが、これを達成できなければ過剰信用・過剰債務問題の根本的な解決は望めないであろう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ