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「健康経営」は現代の成長戦略
~働き方改革との一体推進で働き手中心の企業へ~

2017年10月01日 望月弘樹


働き手の意識変容と大企業への健康経営の普及
 従業員の健康保持・増進が企業の生産性向上につながるとして、経済産業省が旗振り役となって進められてきた「健康経営」は、大企業を中心に実践企業が拡大しつつある。
 昨年度、日本総研は経済産業省の委託を受け、上場企業等従業員の多い企業を対象に、健康経営の実践が企業従業員の生産性や従業員満足度、企業業績に与える影響について調査を行った。その結果、健康経営は従業員の生産性損失低減につながり、仕事満足度・組織貢献意欲や知識創造行動の促進とも6割以上の相関関係にあることが示された。また、健康経営が最終的な企業業績につながるといったロジックモデルについても、一定程度の因果関係が存在することが示された。
 経済産業省・東京証券取引所では2015年度から「健康経営銘柄」を一業種一社で選定しているが、投資家以上に働き手からの反応が大きいという。実際、選定企業のなかには、採用面での効果が現れ始めたところも存在する。
 また、前述の委託事業において、来年度就職を控えた就活生およびそうした就活生を持つ親を対象とした労働環境・職場環境についてのアンケートを別途実施したが、「どのような企業に就職したいか/させたいか」の質問に、「従業員の健康や働き方への配慮」を選択した回答者はそれぞれ4割を超えた。さらに双方とも7割以上が健康経営は就職を決める際の重要な決め手の一つになると回答している。これまで労働を絶対視し、生活を犠牲にしてでも長時間働くことを「美風」としてきた働き手の意識が、「労働はあくまで生活の一部」と大きく変化してきていることが分かる。

中小企業における健康経営の取り組み
 健康経営に取り組む企業を見える化し、社会的な評価を受けられるようにすることを目指して設けられた日本健康会議による健康経営優良法人認定制度では、中小規模法人部門が設けられ、2017年度の初回で95法人、夏には初回の倍以上の223法人が認定された。しかし、約380万社という、わが国の中小企業の数を考えれば、取り組みの急加速が欠かせない。
 一方、経営資源に乏しい中小企業からは、健康経営の取り組みに対する人的・費用的負担の難しさを訴える声が少なくない。そこで、中小企業が健康経営に取り組む場合、まずは人や費用をあまりかけずに開始できる施策を検討することになる。
 例えば、保健師を招いた健康セミナーで個人の健康意識を高めたり、健康に配慮した昼食メニューを提供する仕出し弁当業者に切り替えたり、全従業員が参加できる体操を毎日行ったりすることなどは、比較的手軽であるため、取り組み始める企業が増えている。
 また、従業員が少ない中小企業では、どうしても業務が属人化しやすく、特定の個人に業務が集中することが少なくないが、そうした業務を多くの社員で共有し、過重労働の防止に取り組む企業も見られるようになった。
 このように人的・費用的な負担がほとんどない取り組みに加え、例えばインフルエンザ予防接種の全額費用補助やメンタルヘルスの相談窓口の設置等、病欠者や休職者を低減するために健康経営に一定の投資を行うことも、結果として残業費用や新規採用費用の抑制につながることとなる。さらに、従業員自身の士気向上や職場の活性化をももたらすことが期待できる。
 健康経営は、社員一人ひとりの「忍耐」によって支えられている感もある中小企業にとっては、たしかに踏み込みにくい印象がある。しかし、簡単な取り組みから始めることで、経営者そして従業員の双方ともその価値を理解し、一層本格的に進めていく時期が来たと考えるべきである。

健康経営と働き方改革の一体的な推進
 2017年3月28日に示された働き方改革実行計画では、子育て・介護等と仕事の両立の推進、高齢者の就業促進等の多様な内容が盛り込まれたが、長時間労働者に対する対応や病気の治療と仕事の両立など、健康経営を進める上での施策と一致する点も少なくない。国民の関心が急速に高くなった働き方改革と平行して健康経営を推進し、生産性向上や人材採用面での競争力を獲得していくことが、人口減少社会における現代企業の成長戦略といえるだろう。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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