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アジア・マンスリー 2018年2月号

拡大が期待される中部ベトナムへの直接投資

2018年01月25日 塚田雄太


増加基調が続くベトナムの対内直接投資は、今後も堅調さを維持するとみられる。ハノイ、ホーチミン周辺だけでなく、中部ベトナムの存在感が高まってくると予想される。

■増加が続く対内直接投資
ベトナムの対内直接投資が堅調に推移している。認可ベースの対内直接投資額は、リーマンショックによる世界的なリスク回避の動きやベトナムの不動産バブル崩壊を受け、2011年にかけて2年連続で減少した。しかし、その後は増加基調に転じ、2011年に156億ドルだった投資額は、17年には359億ドルと2.3倍に拡大した。堅調な対内直接投資の背景として、以下の4点を指摘できる。

第1に、良好な経済状況と将来の成長期待である。近年のベトナム経済は高成長が続いている。実質GDP成長率は、2012年に+5.3%まで低下したものの、その後は増勢の加速トレンドが続き、2017年は+6.8%とリーマンショック前の2006年(+7.1%)以来の高い成長率となった。また、9,000万人超の人口規模も相まって、生産拠点としてのみならず、将来の有力な消費市場として期待が高まったことも貢献した。

第2に、投資環境の改善がある。ベトナムのビジネス環境はズン前首相の下で大きく改善した。特に、2015年7月に施行された改正投資法、改正住宅法では、投資禁止分野の大幅削減や外国人による不動産購入規制の大幅緩和がなされた。さらに、TPPに参加していることや、多くの国々とのFTA締結を進めていることも外国企業のビジネス環境改善に一役買っている。
第3に、海外の民間資金を活用したインフラ整備の進展がある。ベトナムでは、脆弱な歳入基盤や赤字国有企業に対する財政支援などから財政赤字が続いており、公的債務残高対名目GDP比は足元では法定上限(65%)近くにまで達している(右下図)。このため、インフラ整備に十分な予算を振り向けられず、海外の民間資金の活用という方策が採られた。例えば、2017年は、タインホア省やカインホア省の石炭火力発電所やキエンザン省のガスパイプラインの案件に日本企業が投資している。

第4に、韓国企業のベトナムシフトがあげられる。中国進出を積極的に進めていた韓国企業は、中国での事業コストの上昇が大きな負担となっていた。こうしたなか、中国の成長率低下などをきっかけに、韓国企業は労働コストが安く、電子部品産業が集積している中国華南地区に近いベトナムへの生産拠点のシフトを大規模に進めた。この結果、韓国からの対内直接投資は直近5年で倍以上に増加した。

先行きも、こうした要因を背景にして対内直接投資は底堅く推移すると考えられる。

■中部ベトナムの存在感が高まる可能性大
 一方、足元ではこれまでと異なる動きもみられるようになった。ベトナムの対内直接投資を地域別にみると、16年以降、中部ベトナムへの投資が増加する一方で、ハノイなどの北部ベトナムやホーチミンなどの南部ベトナムへの投資が一巡する兆しがみられる。対内直接投資額に占める中部ベトナムの割合は、2015年は4.5%に過ぎなかったものの、2017年には20.1%にまで上昇した。これは、インフラ関連投資が相次いだ影響が大きい。以下の3点を勘案すれば、今後は、インフラ関連投資に限らず、中部ベトナム向け投資が一段と拡大する可能性が高いと考えられる。
第1は、中部ベトナムの投資環境整備が進んでいることである。政府は国土の均衡的な発展を目指すなかで、これまでのハノイ、ホーチミンだけでなく中部ベトナムの投資環境整備にも力を入れるようになった。例えば、中部ベトナムの中心的都市であるダナンでは、投資促進センターを設立し投資窓口の一元化を進めてきたほか、IT技術を積極的に活用することで、行政手続きの時間コストを大きく削減した。これを反映して、ベトナム商工会議所と米国国際開発庁が作成している各省・都市競争力ランキングでは、2013年から4年連続で第1位となった。また、クアンナム省では、法人税の減免などの投資インセンティブも整備された。さらに、インフラではベトナム最大級の商業港であるダナン港を抱えるほか、近隣省でも港湾インフラの整備が進みつつある。道路インフラについても、2018年春にはダナン、クアンナム省、クアンガイ省を繋ぐ高速道路が開通予定である。

第2は、ハノイ、ホーチミンの賃金上昇である。ベトナムの最低賃金は、4つに区分されている。この区分では、従来の代表的な外資進出先である北部ベトナムのハノイやハイフォン、南部ベトナムのホーチミンなどは最も賃金水準が高い第1区分に分類される。一方、中部ベトナムの、ダナンは第2区分に、クアンナム省、クアンガイ省は第3区分に分類されている。第1区分の最低賃金は2012年には月額96ドルであったが、2018年にはその1.8倍に上昇する(右上図)。第2区分、第3区分も上昇するものの、第1区分に比べれば低水準である。このため、ハノイ、ホーチミンの労働集約的な産業が中部ベトナムへ移転してくる可能性がある。

第3は、中部ベトナムの地理的なメリットである。近年、経済発展に伴ってハノイやホーチミンでは所得水準が上昇し、2015年のホーチミンの一人当たりGDPは5,000ドル、ハノイは3,500ドルに達している。中部ベトナムは、北部のハノイや南部のホーチミンで台頭する中間層をターゲットとして両睨みできる位置にあり、一大供給拠点になりうる。加えて、中部ベトナムは陸のASEANを繋ぐ「東西経済回廊」の要衝であり、ASEAN域内貿易の拠点として更なる発展の可能性も秘めている。

■求められる官民の産業高度化へ向けた取り組み
このようにベトナム内で投資地域が多様化していくことは、産業高度化を促し、ベトナム経済の発展に資するものである。とはいえ本格的な産業高度化の実現には、高度人材の供給不足など解消すべき課題は山積している。ベトナムがいわゆる「中所得国の罠」を如何に回避し、安定的な発展に繋げることができるかどうかは、足元の潤沢な投資に慢心することなく、それら課題の解決に向けた政府・産業界の不断の取り組みにかかっている。
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