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日本初ソーシャルインパクトボンド導入

2017年09月12日 渡辺珠子


 2017年7月20日、神戸市が糖尿病性腎症等の重症化予防事業にソーシャルインパクトボンド(以下、SIB)を導入することを発表した。SIBは2010年に英国で始まった官民連携のプロジェクトファイナンス手法であり、医療・介護、教育、困窮対策など社会的課題の解決が必要とされる分野が投資対象である。従来公共事業として行われている事業に民間資金や民間団体の知見・ノウハウを活用して効率的・効果的なサービス提供を行い、行政はその事業成果等を原資に成果報酬を資金提供者に支払う。SIBにおける事業成果とは、主に将来の行政負担の軽減を中心とする社会的コストの効率化を指す。神戸市の場合、糖尿病性腎症等の罹患者で人工透析に至るリスクが高い人を対象に、受診勧奨および保健指導を実施し重症化を予防するSIB事業を実施することで、神戸市民の健康寿命の延伸、Quality of Life(QOL)の向上および医療費の適正化という事業成果を目指す(※1)。

 SIBは民間から事業資金を集めるが、事前に想定した事業成果が上がらなかった場合、行政から資金提供者へ支払いを行う必要がない。しかし神戸市の場合は事業の性格を鑑みて、事業費相当の4割(982万円)を最低保証額として事業完了をもって支払うこととしている。残り6割(1,474万円)については、あらかじめ設定した成果指標に沿って2018年度に事業評価を行い、その結果を踏まえて支払われる。さらに当初想定した目標を超えた成果が見られた場合は、事業費相当の3割(727万円)が成果報酬として支払われることになっている。事業開始時点における、2019年度の医療費適正化効果見込みは約14,323万円であり、3割の成果報酬を追加で支払っても事業費用に対して約4倍の財政的な効果を得られることが期待されている(※2)。

 SIBは見込み通りに働けば、行政の財政負担改善が期待できる金融商品であるが、今後の浸透・発展には、資金提供者側から見て魅力的な金融商品であり続けることが必要である。例えば日本のSIB事業は、パイロット事業も含めて成果報酬額が欧米と比較して少額である。また投資金額や成果の考え方について言えば、クラウドファンディングや社会的企業向けファンドなどの類似の民間金融サービスも広く浸透しつつある。神戸市のSIB事業の状況を踏まえつつ、社会的リターンの在り方やSIBが他の類似サービスよりも有効に働く場面など、資金提供者に受け入れられる商品設計についてさらなる検討を進めることが、日本におけるSIB浸透には必要だと考える。

※1 神戸市記者発表資料(平成29年7月20日)
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2017/07/20170720040801.html外部サイトへリンクしますより参照[Access on 2017/8/24]
※2 神戸市のSIB事業における各種数値については、経済産業省「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進事業)調査報告書(平成29年3月)」を参照。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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