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【次世代農業】
次世代農業の“芽” 第3回 食品衛生法改正とアクティブ/インテリジェント包装の可能性

2017年08月22日 各務友規


食品衛生法改正とアクティブ/インテリジェント包装について
 現在、日本では、食品用器具および容器包装の規格基準の国際整合性担保の観点から、厚生労働省を中心に食品衛生法の改正が検討されています。
 係る状況下、農業・食品業界では、フードロス削減やサステナビリティ確保の観点から、鮮度保持期間の延伸を可能にする食品包装への関心が高まっており、同法改正に伴う新たな食品包装「アクティブ/インテリジェント材料および製品」の導入を巡る議論が注目を集めています。

アクティブ/インテリジェント材料および製品とは
 食品包装用のアクティブ材料および製品とは、「包装された食品の期限を延長したり、その状況を維持または改善したりすることを意図した材料および製品」を意味します。すなわち、アクティブ包装とは、包装済み食品またはその食品を取り巻く環境の内外に対して、特定の化学物質を(1)放散、(2)吸収、または(3)固定する機能を有する包装のことを指します。
 他方、インテリジェント材料および製品とは、「包装済み食品または食品を取り巻く環境の状況を監視する材料および製品」を意味します。アクティブ包装とは対照的に、インテリジェント包装は、包装材料の外側の表面に位置し、包装材料の内側とはバリアー材で隔離されていることが特徴です(規則EC、No 450/2009)。

EUにおけるアクティブ/インテリジェント包装に関する法制化と技術および製品開発の動向
 2009年5月、EUはアクティブ/インテリジェント包装に関する法制化を行い、包装済みの食品に対して、特定の化学物質の(1)放散、(2)吸収、または(3)固定を通じて、包装された食品の品質を維持または改善したり、食品や食品を取り巻く環境の状態を可視化したりする材料および製品を公式に認可しました。
 これに伴い、例えば、食品内における病原性微生物の増殖を抑えるための食品保存料、あるいは抗菌・保存効果を有する天然物由来の抽出物等が、食品添加物規制にカバーされる範囲内で、アクティブ包装と見なされることが可能になり、EUでは当該技術および製品の開発が進んでいます。
 実際にEUでは、AIPIA(Active & Intelligent Packaging Industry Association)と呼ばれるアクティブ/インテリジェント包装に関する業界団体が組織されており、当該団体に加盟するメンバー企業や研究機関を中心にさまざまな取り組みが加速しています。さらに、2016年11月、AIPIAは米国のDigimarc社のCMOを役員会に加え、米国におけるプレゼンスの強化を図っており、これらの包装は、国際的な潮流となりつつある状況です。

日本におけるアクティブ/インテリジェント包装を巡る状況
 日本においては、食品包装の原材料に何を用いてよいかは、食品衛生法および業界の自主基準に委ねられていますが、アクティブ/インテリジェント材料および製品に関するポジティブリストは存在しておらず、使用に関しても明確な基準がない状況です。
 しかし、日本では、古くから「ホタテの貝殻を土壌に鋤き込むことで植物の根腐れを防止する」等、天然物由来の抗菌成分を活用した事例が多く見られます。こうした事例からは、日本独自のノウハウの蓄積がアクティブ材料および製品に応用できる可能性が期待されます。
 EUではアクティブ/インテリジェント包装の法制化により、当該技術および製品の開発が進む一方で、日本は法制度の未整備により、これまで蓄積されてきた日本独自のノウハウや技術等の優位性を活かし切れていません。

EUの法制度の海外展開によってもたらされる日本経済への影響
 EUの法制度の影響力は強く、今後国際標準として各国に採用される可能性が高いと思われます。特に中国では2017~2018年にかけて、同制度の採用が示唆されており、さらに、当該法制度化の影響は、巨大市場の中国を見据える東南アジア諸国にも波及するものと推察されます。
 こうした状況が現実のものとなれば、日本はアクティブ/インテリジェント包装に係る技術および製品開発の国際競争に出遅れ、日本の食品包装、あるいは包装と密接な関係にある食品産業自体の競争力が低下し、輸出不振や海外での現地生産販売の機会損失を招く恐れがあります。また、本来あるべき技術の進歩によって消費者が享受できる価値(食品のおいしさ、機能性、鮮度の保持による価値)が得られず、消費者利益の損失を招く可能性もあります。

日本におけるアクティブ/インテリジェント材料および製品の開発の必要性
 厚生労働省が2017年6月16日に公表した「食品用器具および容器包装の規制に関する検討会取りまとめ」によると、今後の課題としてアクティブ/インテリジェント物質の取り扱いが挙げられていますが、内容は「安全の確保策を検討する必要がある」との記述にとどまっています。
 既に述べたように、EUが規制や規格を先導する状況が、わが国の国益や消費者利益損失をもたらす事態を回避すべく、日本においても、安全性を担保するアクティブ/インテリジェント包装の法制度が早急に整えられ、同法制度の下で企業の技術および製品開発が進展する状況づくりが急務となっています。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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