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CSRを巡る動き:加速するカーボンプライシング導入の動き

2017年08月01日 ESGリサーチセンター


 炭素の排出に対して価格付けを行う「カーボンプライシング」導入の動きが加速しています。「排出量取引」や「炭素税」などの政府の施策もその一つですが、世界銀行の2016年のレポートによると、国レベルでは40か国、自治体レベルでは24の自治体が、排出量取引や炭素税などのカーボンプライシング施策を導入済もしくは導入を計画中です。世界最大のCO2排出大国である中国も、2017年の夏に排出量取引を導入する予定としており、中国で導入されれば全世界で排出される温室効果ガスの20~25%に価格がつくことになります(中国導入前は13%)。

 政府の施策だけでなく、企業側にも動きが出ています。事業計画の策定や投資判断にあたり、気候変動が現在または将来の事業活動に与える影響を明らかにし、意思決定を戦略的に行うために、社内で自主的に炭素の価格付け(インターナル・カーボンプライシング)を導入する企業が増えているのです。カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)がまとめた2016年の報告書によると、世界の1200社以上の企業がインターナル・カーボンプライシングを導入済、もしくは今後2年以内に導入予定と答えています。また、2016年時点でインターナル・カーボンプライシングを既に導入している企業は517社あり、2014年に比べて3倍以上に増加したと言われています。

 一方、日本では、東京都や埼玉県など一部の地方自治体において排出量取引が実施されていますが、日本全土で強制的に排出枠を割り当てる規制的な制度の導入は、産業界からの抵抗が根強く、実現には至っていません。税制に関しては、地球温暖化対策のための税として、石油石炭税に上乗せする形で、全化石燃料に対してCO2排出量に応じた税率が2012年から課されていますが、諸外国と比較して税率が低いことなどから、CO2排出削減対策として有効に機能しているとは言えません。

 しかし、世界のカーボンプライシングを巡る動きの活発化を受けて、日本にも変化の兆しが見え始めています。環境省は2017年6月から、「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」を開始しました。排出量取引や炭素税などを導入した場合の産業界への影響等を議論した上で、日本に適した制度のあり方を年度末までに検討する予定です。第1回の検討会では、1990年代には世界最高水準だった日本の付加価値ベースの炭素生産性(温室効果ガス排出量当たりのGDP)が、2000年頃を境に他国に抜かれ、相対的な順位が低下しているというデータが示され、複数の委員から、地球温暖化対策税などの既存の政策を見直すべき、炭素コストをもっと認識させるべきとの意見があがりました。企業側でも関心が高まっており、前述したCDPの報告書によれば、日本でインターナル・カーボンプライシングを導入済もしくは導入予定と答えた企業は、2015年には69社だったのが、2016年には104社に増加しています。

 2017年1月、CDPは「We Mean Business(※)」と協同で、世界初となる産業界主導のカーボンプライシングのイニシアティブ「カーボンプライシング・コリドー・イニシアティブ」を立ち上げました。このイニシアティブでは、電力セクターが脱炭素化するのに必要な炭素価格の範囲を示した報告書を5月に公表しています。それによれば、2050年までに脱炭素化するには、CO2換算で1トンあたりの価格を2020年に24~39ドル、2030年には30~100ドル(約11,100円)にする必要があるということです。化石燃料を多量に消費する産業にとって、炭素価格がこれほど高額になれば、企業経営への影響は無視できなくなるでしょう。米国の資産運用会社BlackRock Investment Instituteも、投資家に対して、「より高額な炭素価格が自身のポートフォリオに与える影響について考慮し、炭素価格に対応する準備をすべきだ」と提言しています。政府や企業によるカーボンプライシング導入を加速する動きは、投資家の世界にも大きな変化をもたらそうとしています。

(※)低炭素社会への移行を目指す企業・投資家の連合体として、2014年9月に結成。参加企業は575社、投資家は183機関。


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