日本総研ニュースレター 2017年1月号
グリーンボンドの可能性
~債券市場を通じて2度目標に貢献
2017年01月04日 村上芽
2013年の約7倍 急成長するグリーンボンド市場
グリーンボンドとは、気候変動・水・生物多様性対策など、環境に好影響を及ぼす事業活動に資金使途を限定した債券(社債・地方債・国際機関債等)のことを指す。資金使途は限定されるものの、一部の例外を除き、返済原資を当該事業が生み出すキャッシュフローに限定しないことから、財務格付は発行体の通常の格付けと変わらない。
グリーンボンドと自ら名乗る債券の発行額は、2016年には前年比倍近い、過去最高の800億ドルに達すると推測される(Climate Bond Initiative調べ)。3年前の2013年には115億ドルだったことから比べれば、急成長を遂げたと言えよう。G20や中国政府も環境金融支援の一環としてグリーンボンドに注目しており、今後も市場の拡大が期待できる。
投資家と発行体のメリット
市場拡大の背景は3点挙げられる。
まず、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に関心を高める投資家の増加だ。このことは、国連の責任投資原則への署名機関が右肩上がりで拡大していることから分かる(約1600機関、運用資産約60兆ドル超)。
次に、気候変動が、金融安定に影響を及ぼし得る新たなリスクとして金融業界に認知され、資産のポートフォリオにおける気候変動リスクに注目されるようになったことだ。気候変動リスクは、気温上昇に伴う物理的リスクと、経済・社会が脱炭素化する過程においてエネルギー産業やエネルギーを多消費する産業などにもたらされる移行リスクに大別される。多くの投資家は特に移行リスクへの対策に注目しており、ポートフォリオを「脱炭素時代」に最適化させるため、再エネ・省エネ事業や環境不動産等への投資意欲を高めている。
投資家が、投資手法として上場株式以外の選択肢が増えることを好感したことも大きく影響している。気候変動枠組条約のパリ協定が採択された2015年12月の時点で、11.2兆ドルの資産を運用する27の投資家らにより、「パリ・グリーンボンド宣言」が採択されたことはその象徴といえる。同宣言に日本の投資家らは加わっていないが、グリーンボンドへの投資額を短期間で3倍の3000億円に増やした生命保険会社が話題になるなど、関心は高まっている。
グリーンボンドを発行して得られるメリットとしては、環境という付加価値で注目を集めやすくなり、投資家の多様化を実現できたことを指摘する例が最も目立つ。例えばフランスの自治体、イル=ド=フランス地域圏の発行したグリーンボンドの購入者は、フランス国内からヨーロッパ全域、さらにアジアにも広がった。
なお、環境に貢献しているからといって資金調達コストが下がるわけではない、というのがこれまでの市場の了解だ。発行する側は環境への好影響を説明するコストを、引き受ける側も信頼性を確認するコストを追加的に負担しており、結局、利率は通常の債券と変わらないのが一般的だ。
さらなる成長により2度目標に貢献を
急成長を続けるグリーンボンドだが、パリ協定が定める、産業革命前からの平均気温の上昇を2度未満とする「2度目標」に必要な資金額から見ると、まだ小さい。グリーンボンドの対象事業としてよく挙げられる、再エネ発電、ビル・工場・交通での省エネに必要な金額だけでも、2015年のパリ協定採択以前に各国が国連に提出した約束草案を元にすると、2030年までの累積で約12兆ドル(IEA調べ 注1)に上る。さらに、2度目標の達成にはその1.4倍の約17兆ドルがかかるとされる。これは年間平均1兆ドル以上ということになり、2016年のグリーンボンドの発行額を仮に800億ドルとすれば、それを12~13倍してやっと近づける金額だ。
しかし、債券市場の規模を考えれば非現実的な数字でもない。2016年の1~9月の債券発行額は、世界的な低金利の影響もあって社債だけで2兆8500億ドルに上っており(注2)、グリーンボンドの成長余地はまだまだ大きい。
2度目標の実現には、巨大な金融マーケットの資金の流れを最大限、グリーンな方向に動かす必要がある。拡大を続ける再エネ発電や環境不動産等に加え、2016年に決まった民間国際航空、船舶、代替フロンへの規制強化に対応するための投資も、投資対象をうまく定義することができれば、グリーンボンドとなじむ可能性がある。
注1:IEA"World Energy Outlook 2015 Special Report Energy Climate and Change"P40に基づき試算
注2:日本経済新聞2016年10月4日
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。