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CSRを巡る動き:スチュワードシップ・コード改訂で深化が期待される機関投資家の役割

2017年04月03日 ESGリサーチセンター


 金融庁は1月31日に「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」を開催しました。同検討会は昨年11月末に同庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の意見書を基に開催が決定し、2014年に施行されたスチュワードシップ・コード(注)の改訂を目的としています。同コードの序文でも「おおむね3年毎を目途として、本コードの定期的な見直しを検討する」との言及があるため、今回の検討会の開催時期も妥当といえます。今回の改訂の議論では以下の3点に注目することができるでしょう。

 第一に、機関投資家の属性に応じて、より詳細な規定が盛り込まれる可能性があることです。スチュワードシップ・コードの原則の主語は全て「機関投資家」であり、実際に運用を担当する運用機関と年金基金等運用の指図を出すアセットオーナーについて特に区別を設けていませんでした。また運用機関においても投資銘柄を選別するアクティブ運用と株価指数に似た運用を目指すパッシブ運用とがあり、取るべき行動も異なりますが、こちらについても特に言及はありませんでした。背景には参考にした英国版でこのような区別がなされておらず、コンプライ・オア・エクスプレイン・アプローチで各主体の自主的な活動を促すという精神があります。しかし実効的なコードの適用という観点からは、具体性を欠くコードの記述は不十分であり、機関投資家の属性毎のガイドラインが望まれています。

 第二に、運用機関のガバナンスについて、より踏み込んだ議論が期待されることです。既存のスチュワードシップ・コードでも原則7で機関投資家に相応の実力を、またそのための必要な体制整備を求めています。先述の意見書では明確に、「運用機関のガバナンスの強化」、「運用機関の経営陣の能力・経験と責務」という文言が用いられ、主に運用機関に対してさらなる実力向上を要請するコードが期待されています。背景には意見書を作成したフォローアップ会議はコーポレートガバナンス・コードについての議論も行っていたことがあります。日本企業の価値向上のためにはスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの両方が適切に働くことが重要で、企業だけではなく運用機関にもガバナンスの強化が必要という認識がこのような指摘につながったものとみられます。

 最後に、検討会メンバーに国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN: International Corporate Governance Network)のケリー・ワリング氏を招聘し、グローバル視点の取り込みにも積極性が見られることです。ICGNは機関投資家及び投資先企業のガバナンスについて提言を続けている国際的な機関投資家による団体です。ICGNも昨年機関投資家向けのグローバル・スチュワードシップ原則を公表しており、その内容の一部を日本のスチュワードシップ・コードにも導入するという展開も予想されます。

(注)スチュワードシップ・コードの原則
1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
3. 機関投資家は、投資先の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

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