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ESG投資が後押しする、長期目線での気候変動対策

2017年03月28日 村上芽


 ESG(環境、社会、ガバナンス)の視点を投資に用いる「ESG投資」が、日本においても市場の約2割を占めるに至ったという調査結果が出た。もちろんその2割のすべてが同じ行動をしているわけではなく、ESG投資を行う投資家といっても関心の切り口は様々ではある。しかし、共通点といえるのは、E(環境)の要素として「気候変動」を捉えるのが一般的ということだ。筆者らが知る限り、ESG投資家を名乗っているにもかかわらず、気候変動を無視する投資家は見当たらない。

 ESG投資家の中でも、特に気候変動対策に影響力を持つと考えられるのが、30~50年後を見据えた長期投資を行う投資家である。そうした投資家は、個々の投資先企業の業績への関心に加え、持続可能な経済・社会の実現を阻害するような事象を取り除こうという思考回路を持つ。投資検討において、人口動態(少子高齢化)などと並んで、気候変動の進展(温暖化)を重要なトレンドとして考慮することが定着している。この行動の1つの現れ方が、脱化石燃料投資や、それを意識したエンゲージメント活動(投資先企業への働きかけ)だ。特に石炭への依存を減らし、再生可能エネルギーへのシフトを後押しする動きが、近年は目立つ。

 例えば米国のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)では、2016年8月に「ESG戦略計画」を発表し、投資先の企業のなかでも温室効果ガス排出量の多い上位企業に対し、今後30年というタイムスパンで、パリ協定の目標と合致する水準での温室効果ガスの削減を求めて働きかけをしていくと宣言している。これは、石油メジャーを含むエネルギー産業に対し、事業変革を求めているのと同じことと言えよう。このような、超長期の目線で活動する投資家の典型例は巨大年金基金で、カルパースの他にもノルウェー政府年金基金グローバルや、スウェーデンのAP4などが代表的である。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、規模からは同様の特徴を有しており、今後の活動が注目される。

 一方で最近の世界政治では、化石燃料産業の復権を謳う米国のトランプ政権の登場を筆頭に、気候変動政策をリードしてきたEUの弱体化を暗示するような欧州諸国の情勢(英国のEU離脱に加え、フランスやオランダでもEUに批判的な勢力が拡大)から、気候変動政策が世界的に後退するのではないかという懸念がある。しかし、気候変動が経済・社会にとってリスクと同時に大きな機会になり得ることは、金融安定理事会の認識にも反映されている。ESG投資家の側にも、時の政権に左右されないだけの情報の蓄積もあるだろう。金融市場の短期的思考が金融危機を招いたことは確かだが、今後はそれとは反対に、長期投資家によって、政権在任期間を超えた長期目線の気候変動対策が下支えされていく可能性がある。気候変動の進展を懸念する筆者としては、その可能性を信じている。


記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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