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【シニア】
第14回 介護保険法改正と「生活支援体制整備事業」から見える新たな公民連携の方向性

2016年10月11日 青島耕平


 私たちの活動は、介護・ヘルスケアと公民連携のオーバーラップする領域にある。和光市と複数の民間企業等によるコンソーシアム活動が公民連携協定を締結し、高齢者向け生活支援サービス提供に関する実証事業を行っているのもその一環である。今回は、地域包括ケアシステム構築に向けた介護保険制度改正という大きな流れの中で、公民連携という文脈から非常に興味深い施策が始まったので紹介したい。

 その施策というのは、平成27年4月の改正介護保険法の施行により創設された「生活支援体制整備事業」である。当該事業は、地域包括ケアシステムの構築における重要な柱の一つである「生活支援・介護予防」の充実に向けて、各市町村が「生活支援コーディネーター」「協議体」の設置を行うとするものである。「生活支援コーディネーター」とは、地域における生活支援・介護予防に関わる関係者のネットワーク構築、資源開発、支援ニーズとサービス提供主体とのマッチング等を行う人材を指す。また「協議体」とは、当該事業の実施主体である市町村が、上記の生活支援コーディネーターと連携しながら、関係者の定期的な情報共有・連携強化のため開催する場を指す。これらを活用しながら、各地域で生活支援・介護予防の充実を図ろうというのである。

 ここでは、介護保険制度の保険者たる市町村の役割がこれまでと大きく変化していることがポイントである。まず注目すべきは、今後充実させる生活支援・介護予防の中身を、各地域がそれぞれの特性に応じて決めなければならないとなった点である。これは、従来の全国一律のサービス設定をしていた介護保険サービスとは大きく異なる。そして、生活支援・介護予防の中身を設定し充実を図る上でまず必要となるのは、そもそも自分たちがどのような地域を目指すのか、という「目指す地域像」を地域の関係者間で協議し、合意することである。なぜなら、「目指す地域像」のかたちによって、必要な生活支援・介護予防の中身が変わってくるからである。さらに、目指す地域像を踏まえた現状分析(目指す地域像と現状とのギャップの把握)、目指す地域像を達成するための課題の抽出を行い、その上で必要な生活支援・介護予防の中身の見極めとその担い手・提供主体の育成や調達、実行後のモニタリング、評価・改善というPDCAサイクルを回さなければならなくなった。
 市町村としては、関係者が集まる「協議体」の場をうまく活用し、生活支援コーディネーターと協力しながら、地域の複数の関係ステークホルダーの意見を集約・合意形成を図り、PDCAサイクルを回しながら、生活支援・介護予防の活動(支援・サービス)の確保と目指す地域像の達成を実現しなければならない。
 これは、これまでの介護保険事業のような、どちらかといえば、保険サービスの給付や事業者の指定などの「定型的」業務とも異なり、またあらかじめ市町村が設定したゴールに関係者を誘導するという「計画的」な行政スタイルでもなく、関係者の意見を吸い上げつつ、協働しながらゴール自体をともに作り上げていくような、どちらかといえばファシリテーターのような役割を市町村が担うべきことを意味する。

 生活支援・介護予防では、特に「自助」「互助」が重要だといわれる。大都市部では、生活支援・介護予防のメニューとして、買い物や調理などの民間の家事支援サービス、配食サービスなども充実しており、またフィットネスクラブやカルチャースクールなどの資源も豊富である。資源の有効活用の観点から、市場でサービスが調達できる部分は市場にまかせるという基本原理に基づくならば、市町村が生活関連企業との積極的な連携を含めた支援・サービスをコーディネート・提供していく仕組みの構築が生活支援体制整備事業であるといえる。

 当該事業をこれから円滑に推進していくためには、市町村にとっては、協議体の場を中心にして、民間サービスを含む地域の資源に関する情報の整理、それらの資源を総動員した戦略の立案と実行が求められる。また、生活支援・介護予防に関わる生活関連企業にとっては、特に地域密着をコンセプトとするのであれば、各市町村が設置する協議体の場に積極的に参画して関係者にアプローチしていくことが今後の事業拡大に有効な戦略となるであろう。地域包括ケアシステム構築に向けた新たな公民連携のかたちの模索が始まっている。

この連載のバックナンバーは、こちらよりご覧いただけます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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