オピニオン
業績連動役員報酬の実態と課題
2016年10月11日 黒田一賢
コーポレートガバナンスコード(以下、コード)施行から2年目の株主総会シーズンが終わり、多くの上場企業がコーポレートガバナンス報告書の最新版を公表した。昨年から、コードの各項目別の「遵守」率や社外取締役の登用状況やその有効性に大きな関心が集まってきた観があるが、このほかに、コード施行により大きく変化している分野として役員報酬に注目することができる。コードの補充原則4-2-1では「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」としており、報告書における開示にも多様な記述が出てきた。ここではコードの目指す「持続的な企業価値向上」の実現可能性が高いとみられるJPX日経インデックス400構成企業(2016年8月末現在、以下、構成企業)の業績連動報酬の開示状況を概観したい。
以前より海外機関投資家からは日本企業の低収益率の原因として業績連動報酬の限定的な適用が挙げられてきた。しかしその懸念を払拭するように構成銘柄の約95%が役員報酬に業績連動部分を採用していることを開示している。業績連動部分の類型として1)業績連動現金報酬、2)株価連動報酬がある。最も一般的な業績連動現金報酬では、構成銘柄の約75%が年次報酬に業績連動部分を設けている。一方、参照する業績指標を明示する構成企業は全体の約21%にとどまり、残された多くの企業には参照業績指標の開示が求められる。
中長期インセンティブとして現金報酬を位置づけている企業は構成銘柄のわずか2.5%であり、構成企業の約60%が中長期インセンティブとして株式報酬を採用している。株価連動報酬にはパフォーマンス・シェア(中長期業績目標の達成度合いに応じ、現物株式の譲渡制限を解除するもの)、リストリクテッド・ストック(一定期間の譲渡制限を付された現物株式を付与するもの)、株式交付信託(報酬相当額を信託に拠出し、信託が市場等から株式を取得し役員に付与するもの)のような様々な形態がある。その中でも構成企業の約33%は株式報酬型ストックオプション(権利行使価格を1円等低額に定めた新株予約権)を採用している。確かに株式連動報酬は中長期インセンティブの方法として採用しやすく、株主との利害も一致させやすいことから一定の合理性はある。しかし株価は企業業績以上に変動しやすく、取締役の能力の及ばない企業業績以外の要因にも影響されやすい点を考慮すると取締役の業績評価に用いることには是非が問われるだろう。株式連動報酬を導入する場合には1)株式報酬の総額に対する割合を限定する、もしくは2)対同業他社の相対的な株価のアウトパフォーマンスと報酬を連動させる等工夫が有効になるだろう。
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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。