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Business & Economic Review 2012年6月号

わが国貿易収支の中期展望

2012年05月25日 大竹重寿


  1. はじめに

    2011年3月の東日本大震災から1年余りが経過したが、わが国貿易を取り巻く環境はなお厳しい状況が続いている。2011年10〜12月期の貿易収支は▲1.2兆円と、3四半期連続の赤字となり、暦年ベースでは▲2.5兆円と31年ぶりの
    赤字を記録した。2012年に入っても、1月には▲1.5兆円と過去最大の赤字を計上するなど、貿易収支は赤字基調が続いている。

    貿易収支の変動を要因分解すると、輸出数量の落ち込みが2011年を通して貿易収支赤字化に作用しているほか、2011年前半は輸入価格の上昇、年後半は輸入数量の増加が赤字化の一因となっている。この背景として、輸出面では①震災による供給制約、②海外経済の減速、③円高、輸入面では④資源価格の上昇、⑤天然ガスの需要増、を指摘できる。2011年夏以降、震災による供給制約は解消に向かったものの、海外経済の減速や円高によるマイナス影響を受けて輸出の低迷が続く一方、資源価格の上昇や原発停止に伴う代替エネルギーの需要増を背景に輸入は増加傾向が続いている。これらの結果として、貿易赤字が続いている。

    こうした状況下、貿易赤字は一時的なものではなく、今後も構造的に拡大していくとの見方も浮上している。クローサーの国際収支発展段階説を参考にすれば、1970年代以降、わが国は「未成熟な債権国」の段階にあるとされている
    ものの、国際競争力の低下により貿易赤字が定着する「成熟した債権国」の段階に移行したとする主張である(図表4)。

    財・サービス等の包括的な対外収支を示す経常収支をみると、所得収支が四半期毎に3兆円前後の大幅な黒字を計上しているため、足元では黒字を維持している。この経常黒字の存在こそが、巨額の公的債務を抱えているなかでも、国債利回りが上昇しない主因である。もっとも、今後も貿易赤字の拡大が続けば、経常収支が赤字に転じる可能性も否定できず、その場合は財政危機にもつながりかねない。

    そこで以下では、わが国の輸出・輸入環境を整理したうえで、貿易収支の中期的な先行きを展望した。
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