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Business & Economic Review 2012年5月号

【特集 アジア経済の現状と新たなビジネス展開】
タイ・インラック政権の政策の特徴と課題-洪水から復興へ

2012年04月25日 大泉啓一郎


要約

  1. 本稿は、タイ・インラック政権の政策の特徴と課題を考察する。


  2. インラック政権は、2011年7月に行われた総選挙でのタイ貢献党の圧勝を受けて発足した。その直後に洪水が深刻化したため、同政権の評価は洪水対策に向けられる傾向が強い。たしかに洪水の被害は甚大であり(被害総額1兆4,100億バーツ)、その復興は最優先すべき政策である。同政権の洪水緊急対策には多くの批判があったものの、その後の短期・中期計画の策定・実施は評価できる。2012年に入って景気は改善に向かっており、復興需要に加えて、インラック政権の景気対策により、2012年の成長率は5.5~6.5%に回復する見込みである。


  3. ただし、この景気対策は、所得格差是正を目的とした公約の実現が中心となっている。公約の大半は8月の所信表明演説に盛り込まれ、すでに実施されている。そのなかには「大衆迎合的な政策」と批判される内容も含まれており、経済復興とは整合性が疑問視されるものもある。


  4. これら公約の実施には1兆バーツを超える資金が必要となるが、その大半は政府系金融機関からの融資によって賄われる見込みである。これは「予算外支出」であり、その不良債権化は最終的には政府の負担となる。また中長期的なインフラ整備の政府負担も1兆バーツを超える見通しであり、公的債務の増加は避けられない。これに加えて、洪水後に巨額の復興費用が必要になったことで、財政の健全性が損なわれる可能性が出てきた。政府は、2011年12月にFIDF(金融機関開発基金)の債務を中央銀行勘定に移行することで、財政の自由度を確保しようとしているが、今後は公約の見直しにも踏み込んだ調整が必要となろう。


  5. 公約である最低賃金の引き上げが、マクロ経済に影響を及ぼす可能性も懸念される。洪水による農業の被害や復興過程での資材関連の需要増、原油価格の上昇のなかでの最低賃金の引き上げは物価上昇圧力をさらに高める可能性がある。また、賃金の上昇がタイの輸出競争力や外国投資誘致にマイナスに働く可能性がある。
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