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Business & Economic Review 2012年2月号

【特集 最適なわが国エネルギー需給体制の構築を目指して】
原子力発電の漸減時の電源ポートフォリオの在り方について

2012年01月25日 松井英章


要約

  1. 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所・事故の影響により、今後の原子力発電所の新増設は不透明な状況となっており、中長期的に原子力発電に多くを依存したエネルギーシステムの維持は困難になってきている。


  2. 長期の電力ポートフォリオについて、エネルギー基本計画や長期エネルギー需給見通しでは2030年時点で原子力発電所の割合を約5割にする計画であった。しかしながら、原子力発電所の新増設をせず、第二世代原子炉の設計寿命とされる40年で廃炉にしていくと、2030年における原子力発電容量は現在よりも半減することになり、当初計画に比べて4,800万kW分の発電容量が不足することになる。


  3. そのギャップを埋める方法をどうするかが重要な論点となる。その際の制約としては、気候変動への影響を最小限にするためにCO2排出量の増加を抑制しなければならない点がある。日本は、他の先進諸国と同様、2050年にCO2排出量を1990年比80%削減するという法的拘束力のある目標を定めている。その途中地点である2030年については確固たる目標は定めていないものの、社会システムの改変や再生可能エネルギーの導入等には時間を要することを鑑みると、従来のCO 2削減目標を下げることは難しい。従来のエネルギー基本計画では、2030年時点において1990年比で30%程度の削減を目指しており、新ポートフォリオにおいても、その達成を目指すべきである。


  4. そのための手段として考えられるのは、再生可能エネルギーの大幅導入であり、国内の再生可能エネルギー導入ポテンシャルを鑑みると、その達成は長期的には可能である。とくに、風力発電のポテンシャルは大きく、いっそうの導入促進を行うべきである。しかしながら、1年間で導入できる再生可能エネルギーの量には限界があり、その導入速度を鑑みると、2030年までに再生可能エネルギーだけで出力容量のギャップを埋めることは困難である。


  5. それでも、そのギャップを化石燃料ベースの発電で埋める場合には、CO 2排出量の削減目標をクリアできないばかりか、化石燃料の調達コストが、資源価格の上昇(IEA見通し)を見込むと、2030年における従来計画と比べ年間約3.1兆円増となることが見込まれ、国際収支上も大きなマイナス要因となる。したがって、そのギャップを火力発電だけで賄うことは避けることが望ましい。


  6. そこで見直すべきは総電力需要である。従来計画の前提では、産業構造の変化の影響は十分には見込まれていなかった。しかしながら、90年以降の電力需要を分析すると、産業構造の変化による電力需要削減傾向が見受けられ、その傾向が続くと想定しつつ、一定の節電努力の継続を仮定すると、2030年における電力需要は当初計画よりも低下する見込みである。


  7. その結果、埋めるべきギャップは当初の6割強となる。残りについては、いっそうの省エネ化、洋上風力発電などの再生可能エネルギーの大幅導入などを追求してその必要量をさらに下げつつ、火力発電所により埋めていくことが想定される。それでも当初計画よりも火力発電所のシェアは高まるが、コジェネレーションの推進などによりその影響を最小限に抑えていくことが重要である。


  8. また、再生可能エネルギーの大幅導入を懸念する声があるが、需要地に近い分散電源に適した太陽光発電のコストは、発電単価ではなく、電力小売単価と比較すべきである。その場合、ファイナンス制度の充実などにより初期負担を長期間で支払うことが出来れば、実質的な保有負担は無視できる程度になる。大量導入のもう一つの再エネ手段である風力発電については、北海道や東北地方などの適地に大量設置することが必要であるが、これについては電力会社間の系統連携強化などの施策が必要である。そのために必要なコストについては、新増設停止により捻出される原子力発電の研究開発関連予算などにより一部補填することが可能である。
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