アジア・マンスリー 2016年6月号
【トピックス】
メキシコ生産を開始する現代自動車グループ
2016年05月30日 向山英彦
2000年代にプレゼンスを高めた韓国の現代自動車グループは中国での販売不振に直面している。こうしたなかで、起亜自動車がメキシコでの現地生産を開始する。同グループの今後のグローバル展開が注目される。
■新興国が総じて不振
中国の成長減速とそれに起因するロシアやブラジルなど資源国の景気悪化は、現代自動車グループ(現代自動車と起亜自動車)にとって逆風になっている。同グループが2000年代にプレゼンスを高めたのは、新興国市場でシェアを上げてきたことによるところが大きく、とくに中国は同グループにとって最大の市場(起亜は15年に米国が最大)で、14年には世界全体の販売台数の22.7%を占めた。
15年の販売台数をみると、米国が前年比(以下同じ)+6.3%、EUが+9.3%と先進国市場では増加したのに対し、新興国市場ではインドでこそ+13.1%となったものの、ブラジルとロシアが2桁減となったほか、中国は▲6.1%となった。
中国では14年に入り自動車販売が鈍化し、15年4月には前年比マイナスに転じた。8月まで前年割れが続いたことを受けて、中国政府が小型車を対象に減税措置を導入したことから、その後販売は回復傾向にあるものの、15年通年の販売台数(2,459万台)は前年比+4.7%にとどまった。
現代自動車グループは中国での販売不振を受けて中国事業の立て直しを図っているが、16年1~3月期も前年同期比▲16.2%であった。最近の販売不振には外資系企業間の競争激化やモデルチェンジの遅れに加え、中国地場企業の低価格攻勢(特にSUV分野)により、現代自動車グループのコストパフォーマンスの良さが以前よりも失われていることが指摘されている。
中国ではこれまで販売が総じて順調に伸びてきた上、シェア上位企業が相次いで生産能力拡張計画を打ち出したため、現代自動車は乗用車の第4工場(北京自動車との合弁)を河北省滄州市で、第5工場を重慶市で建設している。第4工場は15年4月初め(16年完工予定)、第5工場は同年6月に起工式が行われた。このように生産能力を拡張しているだけに、販売の回復が遅れれば、過大投資となりかねない。
■開始するメキシコでの現地生産
中国での販売が低迷する一方、米国での販売は比較的堅調に推移している。15年の米国での販売台数は現代自動車が前年比(以下同じ)+5.0%、起亜自動車が+7.9%となった.この結果、同グループの世界販売台数に占める米国の割合は14年の16.9%から17.9%へ上昇した一方、中国の割合は22.7%から21.3%へ低下した。16年に入っても底堅く推移し、1~3月期に米国の自動車販売が前年同期比+3.4%となるなかで、現代自動車は+0.8%、起亜自動車は+3.7%となった。
現代自動車グループにとって米国市場の重要性が相対的に高まるなかで、起亜自動車が16年5月にメキシコのヌエボレオン州で現地生産を開始するのが注目される。
これまでの現代自動車グループの北米での生産体制をみると、現代自動車が米国アラバマ州での生産を05年に開始し、現在ソナタ(中型セダン)とエラントラ(コンパクトカー)を生産している。他方、起亜自動車はジョージア州で09年より生産を開始し、オプティマ(中型セダン、韓国名K5)とソレント(SUV)を生産しているほか、現代自動車のサンタフェ(SUV)を受託生産している。
上記以外の車種は韓国から輸出されるため、米国販売台数に占める韓国からの輸出の割合が高くなっている。現代自動車を例にとると、05年の米国での現地生産開始に伴い輸出比率が総じて低下してきたが(10年に41.4%)、11年に上昇に転じ、近年は50%近くで推移している。韓国での生産には、①安定したサプライチェーンの存在、②集中生産によるコストダウン、③FTAの活用などのメリットがある半面、為替の影響を受けやすいことや市場の変化に迅速に対応できないことなどの問題がある。また、現代自動車グループでは労働組合との協議を通じて、国内における最低生産台数を決めている影響もある。
起亜自動車がメキシコでの現地生産を開始する背景には、①グループの米国での生産能力が限界に達したこと、②為替変動に強い生産体制にすること、③メキシコが北米・南米市場向け輸出生産拠点として活用できることなどが指摘できる。北米・南米地域の現地生産に関しては、米国を除くと、現代自動車がブラジルで現地生産しているだけである。
■自動車分野で強まる韓墨経済関係
メキシコ政府が北米自由貿易協定(NAFTA)を含め、FTAを積極的に締結してきたため、近年生産コストの低いメキシコが輸出生産拠点として注目され出した。さらに、同国が12年にTPP(環太平洋戦略的経済協力協定)交渉に参加したことにより、その魅力が高まった。
世界の主要完成車メーカーが組立工場を建設したことにより、メキシコは自動車生産台数が09年の世界第10位から14年に7位へ上昇した。15年の年間生産台数は350万台強で中国、米国、日本、ドイツ、韓国、インドに次いでいる。輸出は世界4位である。ちなみに、日産自動車にとってはメキシコが日本以上の輸出拠点になっている。
起亜自動車の進出に伴い、現代モービスと現代ウィアなどの部品企業もメキシコに進出し出した。今後起亜自動車の現地生産が本格化すれば、韓国からの部品輸出や部品企業の進出が増えることが予想される。進出先では、起亜自動車以外の完成車メーカー向けに供給する機会も生まれるだろう。韓国にとりメキシコは10番目の輸出先であるが(15年)、同国への輸出全体に占める自動車部品の割合は上昇傾向にあり、いまやメキシコは米国、中国、チェコに続く自動車部品輸出先となった。
このように、現代自動車グループのメキシコ進出は同グループのグローバル戦略において重要な意味をもっており、今後の展開が注目される。