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アジア・マンスリー 2016年3月号

【トピックス】
韓国にとって存在感を増すベトナム

2016年02月29日 向山英彦


韓国では対中輸出依存度が高いこともあり、中国の成長減速の影響を強く受けている。「過度な」対中依存の是正が課題になるなかで、存在感を増してきたのがベトナムである。

■課題となる「過度な」中国依存の是正
韓国ではグローバル化が加速する過程で中国が最大の輸出相手国になり、中国経済の影響を受けやすくなった。高成長が続いていた時期にはプラス効果を受けたが、近年は反対に、中国の成長鈍化や生産過剰がもたらすマイナス効果(チャイナショック)を受けている。また、15年は安価な中国製鋼材の輸入が増加したこともあり、対中輸入依存度が過去最高になった。

2000年代の年平均成長率は4.4%であったが、チャイナショックの影響を受けて、近年は2~3%台で推移している(15年の実質GDP成長率は2.6%)。

韓国がチャイナショックの影響を強く受けるのは、対中輸出依存度が高い上、影響を受ける業種が多いことによる。基本的に対中輸出額の対GDP比が高い国・地域ほど、中国経済の影響を受けると考えられる。この点を確認するために、中国の成長が加速し9%以上の成長を続けた2003~11年の年平均成長率と7%台へ低下した12~15年の年平均成長率の差異を縦軸に、各国の対中輸出額の対GDP比を横軸にとると、総じて同比率が高い国・地域ほど、影響が大きいことが明らかになった。

さらに、韓国では輸出に占める新興国の割合が58.8%(14年、IMF統計)とアジア諸国のなかで最も高いため、中国の成長減速に伴い新興国の成長が鈍化している影響も受けていることに注意したい。
韓国が持続的成長を遂げるためには、新産業の育成や内需の拡大とならんで、「過度な」中国依存の是正が課題となる。市場としての中国の重要性は今後も続くであろうが、生産拠点や輸出先の分散化を進めて、中国経済からの影響を小さくする必要がある。輸出先の分散化に関しては、新興市場の開拓を進める一方、景気回復が進む米国向け輸出の強化が重要である。

■存在感を増すベトナム
こうしたなかで注目されるのが、ベトナムのプレゼンスが増大してきたことである。ベトナム向け輸出は近年増加基調で推移し、15年も2桁の伸びになった。他のASEAN諸国向けが減少しているのとは好対照である。

ベトナム向け輸出が伸びた結果、15年に同国が韓国にとって中国、米国、香港につぐ4番目の輸出相手先になった(日本は5番目へ後退)。

ベトナム向け輸出が著しく増加した背景に、韓国企業による同国への投資が拡大し、現地生産拡大に伴い韓国から生産財や資本財の輸出が誘発されていることがある 。韓国の対外直接投資額(韓国輸出入銀行データ)の推移をみると、中国への投資額が減少傾向にあるのに対して、ベトナムへの投資額は安定的に推移している。ベトナム向けが増加したことにより、近年ASEAN向け投資が中国向け投資を上回っている。

ちなみにベトナム側の統計では、近年韓国が最大の投資国になっている。

ベトナム向け投資が増加した理由としてはまず、中国と比較して労働コストが低廉なため生産拠点として魅力があること、一定の人口規模(9,000万人強)を有し、市場としての魅力があることが指摘できる。実際、韓国のCJグループやロッテグループがベトナムで消費関連事業を拡大している。

なお、KOTRA(大韓投資貿易振興公社)の調査(「중국 및 동남아 진출 기업 실태 조사」2014年)によれば、中国で操業している韓国企業の移転先候補として、ベトナムが最も多い。

ベトナム向け投資が増加した理由は上記以外に、①電子部品産業が集積している中国華南地域に隣接していること(輸送網の整備により華南からの部品調達が容易に)、②サムスン電子がベトナムをスマホの主力生産基地に位置づけたことにより、関連メーカーが相次いで進出していること、③TPP(環太平洋経済連携協定)に参加していること、④15年末にASEAN(東南アジア諸国連合)共同体が発足したことなどがある。

ベトナムでは対米輸出依存度が19.1%(14年)と高く、他のアジア諸国では輸出が低迷するなかで、米国向けを中心に底堅く推移している。TPP発効に伴い、同国が米国の輸出生産拠点としての役割を担うものと期待されている。

ASEAN経済共同体の発足もベトナム向け投資の増加に一役買っている。ASEANの域内人口は欧州連合(EU)を上回る6億2,000万人で、人口動態面から成長の余地がある。メコン河流域の国では国境を跨ぐ広域開発や輸送網の整備が進んでいる。輸送網の整備は、①域内のサプライチェーン拡大、②国境沿いの工業団地への工場進出、③労働コストの高い国から低い国への生産シフトをもたらしており、成長ポテンシャルは高い。サムスン電子やLG電子がベトナムに家電工場を設立したのは、ASEAN向けの輸出生産基地にする狙いがある。

■注目すべき今後の動き
数年前と比較して、韓国でも「過度な」中国依存を是正する動きが広がっている。IIT(韓国貿易協会のシンクタンク)はポストチャイナとして、ベトナム、インドネシア、ミャンマーを挙げている。中国の存在が大きいだけに、短期間では大きな変化が生じないであろうが、今後の韓国企業の動きならびに韓国の対外経済関係の行方に注目していく必要があろう。
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