コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2016年10月号

日本の輸出回復には新興国向け消費財輸出が重要

2016年09月29日 大泉啓一郎


世界貿易における日本のプレゼンスが低下している。とくに日本企業の現地生産の本格化や中国企業の台頭を受けた中間財や資本財の輸出の減少が目立つ。新興国向け消費財輸出の促進が輸出回復の鍵を握る。

■「スロー・トレード」のなかで日本のプレゼンスが低下
国際連合貿易開発会議(UNCTAD)の最新統計によれば、2015年の世界貿易額は前年比12.4%減の33兆1,330億ドルであった。金額ベースで前年水準を下回ったのは、リーマンショックにより世界経済が縮小した2009年以来のことである。また、近年の世界貿易の伸び率は、経済成長率を下回る「スロー・トレード」と呼ばれる状況にある。このトレンドは2016年も続いている。

この世界貿易の伸び悩みは、原油を含む資源価格の下落と需要の減少が主因である。世界貿易額を工業製品とそれ以外の品目(非工業製品)に区分してみると、非工業製品の取引額の減少幅が大きく、2015年の貿易額の減少の69.1%が非工業製品の貿易額によるものであった。

■中国地場企業の台頭により日本輸出が低迷
資源を含む非工業製品の世界輸出額が前年比24.7%減であったのに対して、工業製品のそれは6.4%減と減少幅は小さい。このようななかで、日本の工業製品輸出が前年比9.8%減と大幅に減少したことは注意を払うべきである。もっとも、日本の工業製品の輸出額(ドルベース)は2011年の7,247億ドルから4年連続して前年水準を割り込み、2015年には5,449億ドルに減少している。この結果、世界輸出に占める日本のシェアは2011年の6.3%から2015年には4.7%に低下した。このような日本の工業製品の輸出低迷には、新興国・途上国の成長の鈍化に加えて、日本企業の現地生産が本格化したことも影響している。ジェトロの調査によれば、15年度の日本企業の海外売上高比率は58.3%で、なかでも輸送機器は62.5%と高く、最終製品だけでなく、中間財や資本財の現地生産率も高まっている。

このことを東アジアへの輸出でみてみよう。東アジア向け輸出は2000年の2,127億ドルから2015年には3,342億ドルに増加し、シェアは2000年の44.4%から2015年には53.9%に上昇した。

この東アジア向け輸出の内容を、素材、加工品、部品、資本財、最終消費財に区分すると、中間財(加工品と部品)と資本財が輸出の8割以上を占める。日本の輸出が東アジアの経済成長を支えてきたといえる。

このうち中国向け輸出が3割~4割を占める。しかし、中国向け輸出は2011年の1,620億ドルから4年連続で減少しており、2015年には前年比13.5%減の1,093億ドルにとどまった。中国の輸入統計からみると、2012年まで日本が第1位の輸入相手国であったが、2013年に韓国に首位の座を譲り、2015年は韓国、米国、台湾に次ぐ第4位にランクを下げている。

この中国向け輸出の不振の原因として、日本企業の現地生産が本格化したこと、同国の設備投資が減少したことが指摘されている。それらに加えて、中国の地場企業の技術水準が向上し、日本からの輸入品を代替するようになった可能性も見逃せない。どの程度日本からの輸入に置き換わったかを確かめることは困難であるが、中国の中間財輸出が2010年の6,383億ドルから2015年に9,723億ドルへ増加しており、これは中国地場企業が生産する中間財の競争力が高まったことを意味するものと解釈できる。中国の東アジア向け中間財の輸出が2010年の2,752億ドルから4,456億ドルに増加したのに対して、日本のそれは2,779億ドルから2,047億ドルに減少している。このことは、中国国内市場だけではなく、日本が東アジア市場においても苦戦を強いられていることを示すものである。

■電子商取引やメディアを活用した消費市場開拓が今後の課題
日本の輸出を拡大させるためには、引き続き技術力強化を中心とする成長戦略が重要であり、中国を含めて新興国・途上国の台頭を考えると、緻密な戦略と大胆な実行力が求められる。

そして、同時に重要と考えられるのが、新興国・途上国で急速に拡大している消費市場向け輸出の促進である。これまで新興国・途上国市場といえば、所得水準が低いが人口規模の多い「中間層」を対象とすることが多かった。しかし現在は、日本と同価格帯の製品を購入する富裕層が拡大している。

近年、新興国・途上国の経済成長に陰りが見えるものの、伸び率は先進国の2倍の水準にあることに注意したい。中国の経済成長が鈍化傾向にあるが、同国の成長率6%を金額換算するとインドネシア一国の経済規模に相当する。

中国における2015年の最終消費財の輸入額は2010年の788億ドルから2015年には1,474億ドルに増加した。これに対して日本からの輸入額は129億ドルとほぼ横ばいである。

昨年、話題となった中国からの観光客による「爆買い」は、中国消費者の購買力の高さとともに、日本製品の質の高さへの信頼を示したものにほかならない。このことを考えれば、中国向け消費財の輸出拡大の可能性は高い。これは他の新興国についてもいえることである。実際に、訪日外国人の購入率が高い製品「インバウンド関連品目」の輸出が伸びている(弊社『日本経済展望』参照)。

そして、中国において「爆買い」は越境電子商取引(EC)を通じた輸入に置き換わりつつある。中国電子商務研究中心の調査によれば、インターネット環境の改善、スマートフォンの普及を背景に、同国のインターネット小売り通販市場は、2016年に5兆元(約70兆円)を超える見込みである。この電子商取引が国境を超える取引にも広がってきたことは、日本からの輸出拡大の好機としてとらえるべきである。また、消費者を囲い込むような販売促進にSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を活用することも重要である。中国だけでなく、新興国・途上国の消費者の行動はインターネット、スマートフォンを経由した購買へとシフトしている。

このようにスロー・トレードのなかでのわが国の輸出回復には、中国を含めた新興国・途上国における消費市場向け輸出促進策が重要な鍵を握っている。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ