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中国で拡大する省エネ市場、需要側視点から新しいエネルギー管理手法を

2016年08月23日 新美陽大


 中国経済は、改革開放以後の爆発的な成長期と比べれば、近年はペースが落ち着きつつあるものの、依然として実質GDPで年率6~7%と堅調な成長傾向を維持している。中国経済の成長の原動力は、「世界の工場」とも呼ばれた急速な工業化であり、工業化の進展とともに電力消費量も急速に増加した。2011年には米国を抜いて世界最大の電力消費国となり、今や世界全体の電力消費量のうち4分の1を占める。中国経済が、今後も「新常態」で謳われるような堅調な成長を続けるには、さらに多くの電力が必要となることが想定される。

図1 各国の年間電力消費量
図1 各国の年間電力消費量
出典:EIA, International Energy Statisticsより日本総研作成

 このような状況を踏まえ、中国政府はこれまで主に供給側の対策を推し進めてきた。例えば、「西電東送」プロジェクト(中国東部沿岸地域での慢性的な需給逼迫状況を解消するため、中国西部地域に豊富に存在する水や石炭資源等を利用して発電を行い、華北・華東・華南の3ルートにて東部への送電を進める計画)のような、発電所の建設や送電線の増強を進めたことで、需給状況は大幅に改善した。しかしながら、近年の国内での大気汚染問題や温室効果ガス削減のような国際問題を背景に、政府はこれまでの供給側に加えて、需要側での対策についても重視する傾向を強めている。2011年には「電力需要側管理方法」が施行され、2012年には国内4都市(北京市、江蘇省蘇州市、河北省唐山市、広東省佛山市)を対象としてデマンドレスポンスの実証事業が行われるなど、着々と制度面での準備を進めている。供給側と需要側の両面から、増大する電力需要に対応しようとしているのだ。

 また中国政府は、中国経済の成長の原動力である工場に対しても、徹底した省エネの実施を求めている。工場にとっても省エネの推進は、政府に対する絶好のアピールとなるのと同時に、エネルギーコストの削減にもつながるため、省エネ責任者はもちろんのこと、経営者の省エネに対する意識は高い。実際に、中国国内の省エネ市場規模は近年急増を続けており、金額ベースで5兆円(設備投資に係る費用を含む)を超えるまでに成長している。今後も国内の工場には、成長と省エネを同時に達成することが求められることを考慮すれば、さらなる市場拡大が見込まれる。

図2 中国における省エネ市場の実績
図2 中国における省エネ市場の実績
出典:中国節能協会公表データより日本総研作成

 成長を続ける中国国内の省エネ市場、特にその中心となっている工場は、省エネを手がける事業者にとっては大変魅力的だ。中国国内の工場をターゲットとして、国内企業だけでなくアメリカやヨーロッパ等の外資企業も、様々なアプローチにより中国市場への参入を進めつつある。例えば、GE社は中国最大の通信事業者である中国電信とアライアンスを組み、自社のIoTシステムの拡大を目指している。

 翻って我が国の省エネ技術を考えると、オイルショック後の徹底した取り組みにより「乾いた雑巾を絞る」と称されるほどの成果を挙げ、飛躍的な進歩を遂げた。日本企業の弛まぬ努力により磨き上げられた技術と、それを適用する上で欠かせない細やかな目配りは、中国など海外市場においても競争力を持つ。さらに、最近の温室効果ガス削減を巡る国際交渉の中での中国の動きを考慮すると、中国政府が近い将来、従来の省エネに加えて、温室効果ガス削減についても厳しい目標値の達成を、国内の企業や工場に求めるシナリオは十分に考え得る。このように複雑なエネルギー管理については、日本企業が得意とする分野でもある。もちろん、中国市場への参入に関しては制度面等で様々な障壁はあるが、従来型の省エネの枠組みを超えた日本企業ならではのエネルギー管理手法が提案できれば、成長を続ける巨大市場で果実を得るチャンスは十分にあると考えている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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