Business & Economic Review 2011年11月号
【特集 拡大する新興国経済と日本の対応】
好調続くブラジル経済
2011年10月25日 藤井英彦
要約
- ブラジル経済はリーマンショック後の落ち込みから力強く回復。しかし、このところ再び先行き不透明感が台頭。ポイントは、レアル高、インフレ、経常収支赤字、際立って高い金利水準、インフラ整備の遅れなど多岐にわたる。
- 2011年4~6月期の実質経済成長率は前期比0.8%と、前期の同1.2%から鈍化。主因は輸入増。実質総需要では、昨年央以来の前期比1%強から4~6月期同1.6%と増勢加速。牽引役は内需。とりわけ個人消費。4~6月期0.8%成長のうち、個人消費が0.6%の寄与。
- 小売売上数量は、今春やや翳りがみられたものの、6月以降再び増勢加速。主な品目別にみると家具や白物家電、あるいはスマホなど情報端末が牽引役。快適な生活を求めて居住環境の改善を進めたり、世界最先端の流行や技術動向に敏感な消費スタンスを示唆。
- 所得・雇用環境は一段と改善。消費者心理も積極的。もっとも、このところ、従来と異なる動き。本年に入って失業率が低下せず横ばい傾向に。一方、雇用者数の増勢は持続。失業率の横這いは、摩擦的失業が失業の大半を占め、失業率がほぼ自然失業率に達するまで改善した雇用情勢に起因する可能性大。賃金上昇圧力増大に作用。
- 中間層の増加と都市化も消費拡大を後押し。前ルーラ政権発足後、ほぼ一貫して低所得層が減少する一方、中間層が増加。中間層は2003年の3割強から2009年5割を超え、2011年55%に。最貧困層は2003年28%と3割弱を占めていたが、2011年13%と1割強まで減少。一方、二輪車販売台数が再び増勢回復の兆し。地方圏、とりわけ北東エリアがリード役。従来、ブラジルの経済成長を牽引してきた南東部や南部が消費拡大の中心で、北東部など後進地域の消費は伸び悩み。しかし近年、地方圏で経済の活性化と都市化が始動。
- 8月末の利下げは、レアル高による製造業や地方経済への深刻な打撃を回避する措置。財政政策を抑制方向に転換する措置と併せ、新たなポリシーミックス。物価上昇率と政策金利水準との大幅な乖離に照らせば、さらなる利下げも視野。
- ブラジル経済は、国内に豊富な資源と拡大する中間層、海外から高水準の資本流入、周辺エリアに地政学リスク皆無など好条件を具備。労働者に手厚い労働法制やインフラ未整備などブラジルコスト問題も克服に向けた取り組みが進捗。なお、多くの新興国対比、ブラジルは低い成長率。高度成長経済の特徴として人口増と都市化、投資の盛り上がりの3点が多くの国に共通して看取。ブラジルの人口増と都市化は70年代半ばまでが最盛期。その分、成長ペースは低く、4~5%成長が巡航速度。国民の厚い支持を保持し強いリーダーシップを発揮する現ジルマ体制下、中期的にわたり巡航速度の経済成長を続ける公算大。