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日本総研ニュースレター 2015年11月号

革新技術を「ラストワンピース」に位置付けよ ~新たな「産業革命」時代の製品開発~

2015年11月02日 木通秀樹


ナノテクノロジーとIoTによる技術革新
 インダストリー4.0など、次の産業革命への発展が期待される技術革新によって、製品開発の速度が急速に向上している。例えば、2008年時点では1億円以上するといわれた燃料電池自動車を、今年初めに700万円にまで下げて発売にこぎつけたトヨタの「ミライ」もその一つだ。
 近年、急速に進む様々な技術革新は、分子レベルの超微細技術である「ナノテクノロジー」と、グローバルネットワークによる「IoT(Internet of Things)」というミクロとマクロの融合によるところが大きい。
 ナノテクノロジーは、特にスーパーコンピュータの高性能化に合わせ急速に発展している。例えば、材料の開発では、人工知能が原子レベルで様々な組み合わせを短時間にシミュレーションすることで、開発スピードを著しく向上させ、コストを低減させた。これにより、従来の方法では発見できなかった画期的な新材料が見いだせる確率が飛躍的に高まってきた。この結果、海外では、実験で合成する前に、構造設計の段階で特許出願をする事例も増えてきた。また、超精密な加工技術の活用で安価に製造可能になった超小型センサーによって、従来では考えられないほど多数のセンサーを結び付けるIoTのネットワークが作られるようになった。例えばヘルスケアの分野では、腕の皮脂の状態をセンサーで把握し、スマートフォンなどで健康状態やダイエット効果を確認できるウェアラブル装置も開発されている。また、ドローンに代表される自立型のロボット分野でも、センサーの他に通信・制御部品の小型軽量化と低価格化が進み、一気に普及するようになってきた。
 次世代の技術革新としては、モノがインターネットに接続されるIoTに脚光が集まりがちだが、本質的にはモノ自体がナノテクノロジーで大きく進化し、それがセンサーや自律制御によってインターネットにつながることで大きな進化を遂げているのだ。こうして生まれる技術革新は、自動車のほか、エネルギー、ロボット、医療、ヘルスケア、次世代コンピュータなど様々な分野に及び、今後の10年を新たな産業革命と言える時代にすることが予想される。

新たな「産業革命」時代に求められる戦略
 産業革命と言える技術革新の特徴の一つは、コアとなる革新技術があるとき突然発達することだ。こうした大きなトレンドを活かし、新たな市場で勝つためには、革新技術をいち早く取り込んだ製品を開発することが重要だ。そうした技術が登場すると、多くの企業が集まって激しい製品開発の競争が始まる。
 この競争で勝ち抜くには、革新技術をいち早く実用化することが重要だ。そのためには、広範な技術開発の情報を獲得するネットワークを構築することが有効となる。例えば、異分野技術が融合しやすい先端的な研究機関との連携により、技術革新の底流を把握する機会が広がる。
 また、もう一つ方法として、革新技術が登場する前から、新技術を想定した製品設計、周辺技術の開発を先行させることも重要だ。革新技術が開発され次第、準備しておいたプラットフォームに「載せるだけ」の状態にしておけば、革新技術が登場してから製品開発をするよりも、製品の市場投入までの期間を短縮できるからだ。

「ラストワンピース」となる革新技術を取り込め
 トヨタは「ミライ」の開発において、コアとなる燃料電池の開発に先んじて、高圧水素タンク、統合制御システムの開発、インフラ整備企業とのネットワーク構築などの周辺機器の開発や関係構築を済ませていた。一方で、他社では燃料電池の開発を先行させたため、トヨタの後塵を拝することになった。革新技術を見定めて「ラストワンピース」を的確に位置づけたことが勝機を見いだした好例と言える。
 実際にこうした先取り型の開発を行うことは、企業にとって負担が大きいが、新たな産業革命の時代においては、変化を先取りする経営が重要となる。過去の産業革命の勃興期には、IT企業、自動車会社、電燈会社など当時の新産業を目指す企業が百社単位で生まれ、次なる経済成長の基盤を作った。この新たな「産業革命」時代にも、規模の大小によらず、多くの企業にチャンスがある。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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