オピニオン
CSRを巡る動き:気候変動と金融活動の統合進展が期待される2016年
2016年02月01日 ESGリサーチセンター
昨年末の第21回国際気候変動枠組み条約締約国会議COP21で、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組みとなる「パリ協定」が採択されました。最大の排出国である米国・中国はもとより、経済成長で更に今後の排出量増加が見込まれる新興国を含む全条約加盟196か国・地域が対象となり、ポスト京都議定書として期待された2009年のコペンハーゲン合意の問題点を克服する形がようやく実現しました。内容としては産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑制するという従前の目標に加え、1.5度未満という努力目標を併記することで、気候変動に特に脆弱な国々にも配慮しました。さらにこれらを達成するために、1)今世紀後半に人為的温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするという長期目標、2)各国別削減目標を2020年以降5年毎に、目標値をより高く設定するという短期目標、も盛り込まれました。
ただし、これまでと同様の取り組みを続けても、パリ協定で規定された目標の達成は困難です。国連気候変動に関する政府間パネルIPCC第5次評価報告書では、1)1880年から2012年までに世界平均気温は0.85度上昇したこと、2)京都議定書発効後の取り組みでは上昇傾向を反転させるには十分でなかったこと、が示されています。今回も、各経済主体の漸進的な取り組みだけでは、目標達成は困難となる可能性は高いでしょう。産業構造の大胆な変化が必須であり、そのためには金融機関が鍵を握るといわれています。投融資といったお金の流れが変われば、低炭素経済・社会への移行のドライビングフォースになるからです。他方、こうした変化を見誤れば、金融機関は「経済移行リスク」に晒されることになります。経済移行リスクとは低炭素経済・社会への移行を見誤り投融資回収が困難になるリスクのことで、石炭や油田開発に伴う座礁資産(stranded assets)がその代表例と言えます。金融機関にとって経済移行リスクを把握するためには、信頼性の高い投融資先の情報開示が必要不可欠となります。しかし環境を含めた非財務情報開示原則は既に約400と乱立しており、投融資先及び金融機関にとって必ずしも有用ではない状態が継続しています。これに関してCOP21開催中に注目すべき発表がありました。
昨年12月4日、国際的な金融システムの監督機構である金融安定理事会(Financial Stability Board: FSB)は、気候変動に関する財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosure: TCFD)を設立したと発表しました。FSBは、各国中央銀行の政策・国際協調支援機構である国際決済銀行(Bank for International Settlements: BIS)に事務局を置く機関で、金融監督に一定の影響力を有します。同タスクフォースは、都市・気候変動担当国連特使として活躍中で、前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏を議長として招聘し、金融機関に有益な投融資先の気候変動リスク情報開示促進を目指す方針です。先述の経済移行リスクも、金融安定を脅かす気候変動三大潜在リスクの一つとして取り上げられ、情報開示指針について議論が行なわれます。具体的にはステージ1とステージ2の二段階での議論を経て、最終的な提言内容を公表するとしています。ステージ1では10名の民間委員とともに活動の範囲・目標の決定を目指し、2016年3月までに完了する予定です。一方、ステージ2では最大30名の専門家を招集し、投融資先による自主的な情報開示原則、先進事例についての具体的な提言を目的とし、2016年末までに完了する見込みです。
今回のタスクフォースは1)FSBという金融監督において権威ある機関による主導、2)金融市場の安定化への対応というシステミックな視点、3)機会ではなくリスク開示促進という目的から、持続可能な社会に対して、金融機関に新たな投融資の判断材料を提供する一助となるものと期待されるものといえるでしょう。2016年はこのタスクフォースの動向から目が離せなくなりそうです。