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国の環境格付は投資行動に反映されるのか

2016年01月26日 村上芽


 国単位で、環境や持続可能性に関する政策や、気候変動の影響への適応度合いを評価して、格付またはランキングを出す動きがある。

 例えば、米国のイェール大学とコロンビア大学は、2000年から共同して「Environmental Performance Index(EPI)」を作成し、発表している。EPIでは、国ごとに、健康とエコシステムの2軸で、20の指標を用いて評価を行う。20の指標には、子どもの死亡率、大気汚染、飲料水、衛生、農薬、森林面積、漁業ストック、絶滅危惧種の保護、二酸化炭素排出量などが含まれる。2014年調査では、日本は178カ国中26位である。上位はスイス、ルクセンブルグ、オーストリア、シンガポール、チェコで、米国は33位、中国は118位だった。EPIの結果は毎年、世界経済フォーラムで発表されている。ただ、この研究成果は興味深い内容であるものの、個々の国の政策目標や、投資判断、不動産の評価などに広く活用されているとは考えにくく、数ある国別ランキングの1つとして知られているにすぎない。

 他方、投資判断の立場から、国を格付する例もある。ドイツの老舗サステイナビリティ格付機関であるoekomリサーチ社は、2001年から国別の社会・環境格付を約100の指標を用いて行い、機関投資家などの顧客に提供している。評価はポジティブ評価と、投資対象から排除するためのネガティブスクリーニングから成る。投資家は、国債等に投資する際に、信用格付に加えて社会・環境格付を用いることができる。

 さらに、気候変動がどのようにソブリンリスクに影響するのかといった観点の調査も出てきている。その1つが格付機関であるスタンダードプアーズ社が2014年に発表したレポートである。同社はソブリンリスク分析にあたって、気候変動を高齢化に次いで2番目の「グローバルメガトレンド」と位置づけている。そして、気候変動は経済、金融、貿易を通じて国の信用リスクに影響を及ぼすとする。目を引く分析の1つとしては、火山の噴火のような災害が小国の経済に大損害を与えた例であれば、世界中からの援助によって立ち直ることができるものの、複数の大国を同時に襲うような気候変動の被害からの復興に関しては、諸外国からの支援に頼れないという指摘がある。同レポートでは、気候変動への脆弱性を測るにあたり、(1)海抜5メートル以下の居住人口の割合、(2)GDPに占める農業輸出の割合、(3)ノートルダム大学(米国)のND-GAIN指標(気候変動の影響の受けやすさと適応許容力からなる指標)の3つの値の平均を順位付けすることで、116カ国の強靭度ランキングを作成した。そこでは、日本は55位である。上位にはルクセンブルグ、スイス、オーストリアなど、(1)の割合がゼロになる欧州の内陸国が並ぶ。(3)の指標だけで見れば2位のデンマークは、(1)が104位であるため総合では22位となるなど、地理的な条件が大きく影響した結果となった。米国は10位、中国は82位だった。

 現時点では、国の環境格付を国への投資評価に生かそうとする動きは金融市場の一部にとどまる。しかし、2014年以降、国際的には金融安定と気候変動の関わりについての関心がG20や金融安定理事会でも高まっていることや、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投資判断に取り入れる投資家が拡大していることを踏まえると、国への評価(国債の評価や、直接投資判断など)に環境格付が統合される可能性も十分にある。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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