コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2015年8月号

「健康経営」を通じた高齢社会における成長戦略

2015年08月03日 望月弘樹


平均年齢50歳超「高齢会社」時代の到来
 高齢化が進展するわが国において、全産業平均での雇用者平均年齢は45.8歳に達している。仮に、現在の世代別就業率が一定と仮定したまま生産年齢人口の減少が続くと、2030年には平均年齢が約50歳に達すると推計される。また、平成25年の高齢者雇用安定法改正によって義務付けられた65歳までの雇用延長についても、さらなる高齢化を背景に今後引き上げの可能性もあり、企業の「高齢会社」化が避けられない状況にある。
 60代以上の医療費は全体の約3分の2を占めるなど、高齢者は疾病リスクが高い。疾病による欠勤や出社中の心身の不調は、その従業員の生産性が低下するだけでなく、彼らの業務をカバーする周囲の負担増などももたらす。米国では企業の健康関連コストのうち欠勤が約10%、心身不調が最大60%を占めるとの研究もあり、疾病リスクが企業のコスト増加につながることが認識されるようになった。

「健康経営」で「高齢会社」化に備えよ
 企業側は増加する高齢従業員の疾病リスクへの備えを強化する必要がある。そのなかで、従業員の健康管理を通じ企業の生産性向上と健康関連コスト抑制を目指す「健康経営」の概念が注目され始めるようになった。既に米国デュポン社では勤務時間内でも受講可能な健康プログラムを複数導入し、2年間で従業員の傷病日数を1万日以上減少させるなど、健康関連コストを約160万ドル節減させている。
 日本でも、例えばアサヒビールが主要拠点への保健師の配置をはじめ、ストレスチェックや個別メンタルヘルスフォロー、生活習慣改善につながる長時間労働の防止、健康イベント等の取り組みを行い、2013年度の1人当たりの医療費を2010年度比で6.5%減少、傷病休職者数では33%減少させた。また、花王では、2010年度から「KAO健康2015」という中期計画の下、全社ウォーキングキャンペーンや社食での健康食の提供を行っている。2013年度には長期休業者数が2008年度対比46%減少、生活習慣病に関係する医療費では1人当たり7.9%改善など効果を上げている。
 つまり、健康経営は従業員を健康に保つことによって生産性を向上させるばかりでなく、上記のように医療費や傷病手当金といった健康保険組合等保険者の支出抑制につながる取り組みだ。また、何らかの形で家族を介護している就業者数は現在290万人以上いるが、彼らのように時間的、体力的に厳しい状況にある従業員や、子育て中の女性などが働きやすい職場環境を、健康経営によって実現させやすくなる。結果として、従業員の多様な働き方の実現や有能な人材の定着促進等につながると考えられる。
 健康経営によって従業員満足度が高まれば、離職率が低下することも期待できる。また、事例として挙げたアサヒビールを中核企業とするアサヒホールディングスや花王は、経済産業省と東京証券取引所の「健康経営銘柄」にも選ばれ、メディアに数多く取り上げられた。これらの企業では、従業員の健康に配慮する企業としてのイメージ向上とそれによる人材採用面でのプラス効果も期待できるだろう。
 金融業界では、このような健康経営の実践による企業価値向上に着目し、企業に健康経営を促す金融商品が開発されている。日本政策投資銀行による健康経営格付は、従業員の健康に配慮する企業は長期的な成長が見込めるとして開発された融資制度だ。また、昨年からは青森銀行が低利の健康融資制度を開始した。青森県では40~50代の死亡率の高さが生産年齢人口の減少につながっており、地域の金融機関の危機感を表した商品といえる。

「健康経営」を通じた成長戦略構築を
 健康経営を自社の高齢会社化への対応策としてだけではなく、戦略的に活用する企業も出始めている。広島を本拠とする食品スーパーのフレスタでは、「The Healthiest Supermarket」というコンセプトの下、カロリーや塩分を抑えたプライベートブランド商品を提供するほか、従業員が個々の健康目標を記した「健康宣言」という名札をつけ、全社一丸での健康経営の取り組みのアピールを行うなど、健康志向の高い消費者の客単価の高さに着目したブランド戦略を推進している。他社との差別化要素としての健康経営の活用は、今後特に「食」や「運動」など健康関連産業において浸透していくだろう。
 2015年7月、日本健康会議が発足した。経済団体、保険者、自治体、医療団体、労働団体等が発起人となって一致団結し、2020年までに健康経営に取り組む大企業500社以上、健康宣言等に取り組む中小企業1万社以上を目標に掲げている。社会的に健康経営の推進に向けた取り組みが進む中で、企業側は健康経営を重要な成長戦略の一つとして取り入れることが今後不可欠となってくるはずだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ