コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

CSRを巡る動き:インパクト・インベストメントという金融商品の拡大

2015年11月02日 ESGリサーチセンター


 海外大手金融機関が、富裕層向け社会貢献型金融商品を拡充しています。「インパクト・インベストメント」と呼ばれる、投資収益だけでなく社会的なインパクトの創出も目的とする投融資行動に対応する商品です。少子高齢化、格差拡大、政府の財政悪化という状況のなか、インパクト・インベストメントは、民間の資金を使った社会課題解決の新たな処方箋として期待されています。

 海外大手金融機関は、2011年頃から、外部のインパクト・インベストメント・ファンドに投資し始めるなど、取り組み始めてきました。それが、ここ1、2年、これら金融機関が自らファンドを設立し始めています。その主な例として、2013年のゴールドマン・サックスによるSocial Impact Fund設立、同年のUBSによるImpact Investing SME Focus Fund設立、2014年のモルガン・スタンレーによるインパクト・インベストメントにフォーカスをしたポートフォリオの設立などがあります。

 ゴールドマン・サックスの事例では、低所得コミュニティの地域活性化や雇用創出などにつながる事業に投資をしています。例えば、シカゴの低所得層の子どもを対象とした就学前教育プログラムに約1,690万ドルを出資しています。早期教育は発達障害を防ぐ効果があるため、本プログラムが成果を発揮すれば、シカゴ市の特別支援教育費という財政負担が減ることが期待されます。この部分がまさに期待される「インパクト」となるのです。この案件では、ソーシャル・インパクト・ボンドと呼ばれる官民連携型の投資スキームが使われています。当プログラムの成果に応じて、特別支援教育費の削減分からシカゴ市が民間投資家にリターンを払うという仕組みです。さらに、同社は今年7月に老舗インパクト・インベストメント・ファンドのImprint Capitalを買収し、注目を集めました。同社がインパクト・インベストメントに本腰を入れて取り組み始めたと受け止められたからです。

 これまでインパクト・インベストメントの運用は、それに特化したニッチな運用機関が担っていました。これに対して近年、富裕層を中心とした個人投資家による需要の高まりが生まれています。団塊世代の多くは、次世代により良い社会を残す形で資産を継承したいという趣向を強めており、団塊世代から資産を継承するミレニアル世代(注)の多くも、金銭的リターンだけでなく社会的意義を求めています。海外の大手金融機関は、このような顧客ニーズに対応するために商品の充実化を図っているといえるでしょう。

 日本でも、途上国の貧困削減などを目的とするインパクト債が個人投資家に販売されていますし、個人が一口数万円からオンライン上で投資できるプラットフォームで老舗酒造や小型水力発電所などの地方創生を担う地元企業への投資が可能になっています。インパクト・インベストメント商品が本格展開する土壌は少しずつですが整いつつあるといえるでしょう。大手金融機関が取り扱うようになるためには、(1)投資先となる社会的企業や非営利団体の事業についての情報と理解の不足、 (2)一件当たりの投資規模の小ささが課題として指摘されることがよくありますが、投資先事業の収益性と社会性を的確に評価する中間支援組織や既存のインパクト・インベストメント・ファンドとの連携によってその克服は可能な面もあります。

 金融機関の行う本業を通じた社会課題解決の具体化として、日本でも、地方創生や子育て支援をテーマとしてインパクト・インベストメント商品が提供される日はそう遠くないかもしれません。

(注)1982年以降に生まれた世代を指します。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ