オピニオン
投資家向け経営者メッセージを読む
2015年10月13日 村上芽
スチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードの運用開始によって、投資家との対話に関心を持つ企業が増えてきた。投資家との対話というと、ROE目標に関心が向きがちだが、ESG(環境、社会、ガバナンス)情報を含む非財務情報に関するコミュニケーションも、静かではあるものの動き始めている。女性活躍推進に関する目標を株主総会で説明するのも、その一例である。
ESGに配慮した投資を行う投資家に対し、企業のESG情報を収集・分析し、提供するというサービスがあり、弊社でも1999年から実施している。今年度も、多くの企業からアンケート調査へのご協力をいただいた。分析に際し、弊社が最近重視しているのは、「PPP+V」というフレームワークである。「PPP+V」とは、ESGに関する方針(Policy)、取り組み(Practice)、実績(Performance)を見た上で、それが企業価値(Value)につながっているのかどうか、という重層的な視点で、企業を分析する。例えば「女性活躍」ということについて、女性管理職の割合といった実績(Performance)はもちろん大事なのだが、方針(Policy)が定められているのかどうかという点を注視する。法制度の整っているテーマであれば、方針がなくても取り組みや効果が出ている場合もある(例えば育児休業制度の整備と利用者の拡大など)。しかし、それでは良い取り組みがあっても単発的で、持続性に欠ける点が懸念される。加えて、個別テーマにおける“活動方針”だけでなく、“経営方針”の一環になっているかという点を重視する。特定の部署や担当者の頑張りで出来る範囲の成果にとどめず、企業風土や企業文化といった経営を支える土台に「女性活躍」や「ダイバーシティ」が息づいているかを見極めたいのである。
その手掛かりとしては、経営者がESGに関連してどのようなメッセージを出しているのか、特に、投資家に向けた説明においてどのような言葉を選択して、企業の社会的責任やステークホルダーへの配慮に関する方針やコミットメントを表現しているのか、に着目している。これまで環境や社会などの側面に対してそれほど関心を示してこなかった投資家に対し、あえてそこに言及し、分かりやすく、明確に表現しているかという点は、その経営者の社会的責任やESGに対する価値観や姿勢を占うものだと考えている。
経営者メッセージの内容は、ESGに関する実績データと異なり、定量評価したり比較をして優劣をつけたりすることが難しい。それでも、多くの企業の経営者メッセージを読むと、経営者自身がどれほど自分の言葉を用いているのか、本気を示しているのか、といった差異が感覚的に伝わってくる。毎年、多少文言を入れ替えただけのメッセージは情報の海のなかで埋没してしまうのに対し、何度も読み返して味わいたくなるようなメッセージもある。これらを記録し、事後的にも検証することで、企業価値とESG配慮の関係性について、一層知見を深めていきたいと考えている。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。