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アジア・マンスリー 2015年9月号

【トピックス】
悪化する韓国若年層の雇用環境

2015年08月31日 向山英彦


韓国では近年若年層の失業率が上昇している。政府は雇用対策に取り組んでいるが、その効果は限定的である。今後の雇用対策として中堅企業の育成に注力することが求められる。

■上昇する若年失業率
韓国の失業率は、2002年以降3%台で推移してきたが、近年実質GDP成長率が2~3%台に低下したこともあり(2000年代の年平均成長率は4.4%)、上昇傾向にある(13年3.1%、14年3.5%、15年4~6月期3.8%)。とくに若年層(15~29歳)の失業率は13年の7.9%から14年に9.0%、15年4~6月期に9.9%へ急上昇し、2000年以降で最も高くなった。

全体の失業率および若年失業率自体はOECD加盟諸国のなかで低い方であるが、失業が若年層に集中しているのが韓国の特徴である。若年失業率と30~54歳の働き盛り世代の失業率との対比(13年)は韓国が3.51倍で、OECDの調査対象22カ国・地域のなかで最も高くなっている(「OECD Skills Outlook 2015: Youth, Skills and Employability」)。

この要因としては成長率の低下以外に、大企業の新卒採用者数が減少していること(グローバル化による国内の雇用創出力低下、中途採用の増加などによる)、中小企業による雇用吸収が進んでいないことなどが指摘できる。中小企業の多くは慢性的な人手不足に直面し、「雇用許可制」の下で外国人労働者を受け入れて、なんとか人手を確保している企業もある。

韓国では大学進学率が高いため、若年層の期待所得が高い一方、賃金や福利厚生の面で大企業と中小企業の格差が大きいため、人材が中小企業に向かわないという問題がある(中小企業に対する社会的評価の低さも問題)。ちなみに、月平均賃金額の中小企業と大企業の比率は04年の59.8%から14年に56.7%へ低下するなど、賃金格差は広がっている。

■深刻な非労働力化
失業以上に問題視されているのが、非労働力化の進行である。学業も求職活動もしない非労働力人口(統計上失業者に含まれない)は2000年代前半に一端は減少したが、06年に増加に転じた後、高止まりしている。失業者と非労働力人口の増加に伴い、若年層の労働参加率は低下している。比較的年齢層の高い層で労働参加率が上昇しているのと対照的な動きである。

「経済活動人口調査」によれば、就職活動をしない理由は「条件に合う仕事が無い」、「就業のため準備している」が多く、それぞれ全体の3割程度を占め、「質の高い」雇用が少ないことを示唆している。

政府も近年若年層を対象にした雇用対策に取り組んでいる。インターンシップの拡大、雇用促進奨励金の支給、産学連携の教育プログラムの実施、労働市場のミスマッチの解消などである。13年5月には「青年雇用促進特別法」が改正され、公共機関と地方公企業では毎年定員の100分の3以上青年未就業者を雇用することが義務づけられた。  

最近の雇用環境の悪化を受けて、15年7月に新たな対策が打ち出された。雇用機会の増加、労働市場のミスマッチの改善、雇用支援体制の改善の3本柱で構成されており、雇用機会の増加に関しては、公共部門での雇用増加(障害者教育、ケアサービスでの人員増加ほか)やサービス産業育成などのほか、民間企業に関するものとして、①前年より正規職を増やした企業に税制面で優遇する、②ピーク賃金制を導入し若年層の雇用を増やす企業に対する賃金の支援、③成長性の高い中小企業でのインターンシップ生を年に5千人にまで増やすことなどが盛り込まれた。

また、労働市場のミスマッチの改善策には産学連携の職業訓練の促進、大学のプログラムの改革、中小企業の労働環境改善、雇用支援体制の改善策には支援プログラムの統合、支援体制の一元化、大学における就職支援センターの拡大、海外での雇用機会創出などが含まれている。

■求められる「質の高い」雇用の創出
雇用環境が悪化するなかで、韓国の大学進学率が08年の83.8%から14年に70.9%へ著しく低下した。急上昇してきた反動に加え、子供を大学に行かせる経済的余裕がなくなったこと、大学を出てもそれに見合う仕事につくのが難しくなったことに対して「現実的な認識」を持ち始めたことによるものと考えられる。

朴槿恵政権は政権発足後、雇用率を70%へ引き上げることを目標に置き、創造経済を通じた雇用創出、労働時間と就労形態の改革、未開拓労働力の動員、社会的責任と労使政協議の強化などを推進している。しかし、若年雇用対策として期待される創造経済を通じた「質の高い」雇用創出が最も遅れている。現在まで主要17都市に創造経済革新センターが設置されたが、その成果が表れるのにはまだ時間を要する。

革新的な企業の成長とならんで、既存の中小企業の高度化を促進することにより、優秀な人材が中小・中堅企業へ向かうようにすることが、雇用対策のうえでも、また財閥中心の経済構造を是正するうえでも重要であろう。
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