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ハードウェア・スタートアップの隆盛に見た技術ベンチャーの可能性

2015年03月02日 宮内洋宜


ハードウェアづくりに集まるスタートアップ
 米国家電協会が主催する世界最大規模の家電展示会 “Consumer Electronics Show (CES)”は今年も盛況だった。大手家電メーカーの華やかな展示に並び、近年存在感を増す自動車メーカーが誇る自動運転やコネクティッド・カー(通信機能を有する車)の最新技術も目を引いた。
 しかし、約18万人が集まったラスベガスで感じたのは、こうした大企業に勝るとも劣らないスタートアップ、いわゆるベンチャー企業の勢いだ。かつては投資規模が比較的小さいソフトウェア事業に集まっていたベンチャー企業が、今ではウェアラブルデバイスやドローンといった最先端のハードウェアの領域に次々と参入しているのだ。

機材・施設・資金面での壁が低くなった
 このような「ハードウェア・スタートアップ」が多数生まれているのには理由がある。
 一つは製品開発に欠かせないプロトタイプ作りや、少量生産が簡単になった点だ。従来、プロトタイプのような「一点もの」を作るには、それなりの手間と費用が必要だった。しかし3Dプリンターが出現したことで、立体構造のデータさえあれば手軽にガワ(筐体)を作れるようになった。加えて、従来の加工法では実現が難しかった複雑な構造のモノも製作できるため、デザインの自由度も大幅に向上した。この分野はハードウェア・スタートアップ自身による革新が進んでおり、利用できる材料の多様化や作れるモノの大型化、さらには量産に応用できる製品も出始めている。
 ガワだけでなく、モノを制御するためのナカミの開発、すなわち電子工作も以前と比べて敷居が下がった。ArduinoやRapsberry Piなどの安価で小型なマイコンを活用すればICチップに組み込みプログラムを書き込む専門的な開発環境やはんだ付け作業が必須ではなくなり、企業の技術者でなくてもプロトタイプを容易に作製可能となった。
 3Dプリンターをはじめレーザーカッター、旋盤やボール盤、フライス盤など様々な工作機械を会員が時間制で利用できるといった、容易にモノづくりに取り組める施設も生まれてきた。シリコンバレー発のTechShopが有名で、もともとDIYに関心が高い米国では広く受け入れられ、今では全米で8カ所にまで増えている。単に設備を提供するだけではなく、コミュニケーションスペースを設けるなど、ユーザー同士の交流を重視していることも大きな特長であり、いわばインキュベーション施設の役割を果たしている。米国ではこうした施設から巣立つベンチャー企業も多く、日本でも柏の葉にあるKOILや秋葉原のDMM.make AKIBAなど、同様の施設が増えてきた。
 企業の立ち上げに必要な資金面では、クラウドファンディングが大きな役割を果たしている。民衆(クラウド)による資金提供(ファンディング)の名前の通り、一般消費者から少額(数千円~数万円)の出資を募り、プロジェクト(≒開発)が成功すればその対価(たいていの場合はプロジェクトで開発する製品そのもの)を出資者に提供する仕組みとなっている。やはり米国発祥のKickstarterやIndiegogoが有名だ。クラウドファンディングではほとんどの場合、出資金の合計があらかじめ設定した目標額に達しないとプロジェクトが不成立となるため、多くの出資者の関心を集めること自体が消費者に対するテストマーケティングの役割も担っている。

モノづくりの容易化が導く新たな日本型技術ベンチャー
 こうした動きは、個人やベンチャー企業ばかりでなく、大企業が新しいものを生み出す手助けにもなっている。企業内での試作・開発の簡便化・迅速化はもちろん、電子ペーパーを使った腕時計「FES Watch」や手軽にIoTの開発ができる「MESH Project」(共にソニー)のように、クラウドファンディングを通じて社内プロジェクトを世に問う事例も現れ始めた。
 モノづくりのハードルが下がることは、自社の得意分野以外にもアイデアを拡げることが可能となり、分野融合の取り組みも容易になることを意味する。また、大規模なプロジェクト化が難しく企業内では採用されにくいシーズでも、製品化を進めることが不可能ではなくなった。こうした仕組みが今後も企業に取り込まれ、スピンアウトを含めた出口につながっていけば、日本が苦手と言われてきたイノベーションを加速する推進力となり、日本型技術ベンチャーの新たな姿を形づくっていくのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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