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日本総研ニュースレター 2015年5月号

世界のESG投資の拡大とそれを後押しする3つのトレンド

2015年05月01日 林寿和


欧州におけるESG投資の規模は既に従来型投資以上
 世界におけるESG投資の拡大が続いている。ESG投資とは、投資判断の際に環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に関する情報を意識的に考慮して行う投資の総称だ。2015年2月に発表された統計では、世界のESG投資は2012年から2014年にかけて約8.1兆ドル増加し、全運用資産の30.2%に達した。特に欧州では、ESG投資と従来型投資の比率が逆転した。
 背景には、それぞれアングルの異なる3つのトレンドの影響が考えられる。
 第一のトレンドは、気候変動や資源枯渇等の環境問題や人権問題といったESG課題への対応が、中長期的に企業経営、さらに運用結果を大きく左右するという認識の広がりだ。例えば、2011年にタイで発生した大雨による洪水によって多数の日系企業は大きな被害を受けた。また、人権を軽視した事業活動を理由に不買運動を起こされる企業も増えてきている。こうしたことは投資リターンにも打撃を与える。一部の機関投資家の間では、こうしたことが今後、中長期的に増えてくるとして警戒を強めている。
 年金基金等の機関投資家が負う「受託者責任」の概念にも変化が見られる。例えば、英国政府の法務委員会は2014年、「受託者責任」の法的概念を明確化するため、判例等の網羅的なレビューを実施している。その結果、投資リターンに影響する可能性のあるESG要素は「受託者責任」の下に考慮されるべきと結論付けている。NGO等のグループの中には、気候変動に伴うリスクを考慮した運用を行わない年金基金に対し、「受託者責任」を果たしていないとして法的手段に訴えることを検討する動きまで出てきている。
 第二のトレンドは、短期志向(ショートターミズム)から中長期的な投資への転換要請だ。ここの短期・中長期とは、株式の保有期間の長さではなく、投資判断における時間軸の長さを指す。すなわち、短期的な業績予想等に過剰に反応するのではなく、中長期的な展望を十分に考慮した投資判断が要請されている。こうした要請が行われる理由は、投資家の短期志向が社会全体に及ぼす損失への懸念が高まったからだ。実際、投資家の短期志向は投資先企業の経営の短期化を招き、経営が短期化すれば、中長期的な競争力の源泉となるイノベーションへの投資が行われにくくなるなどの弊害が指摘されている。中長期的な企業競争力の低下は、最終的に投資家の運用結果にも跳ね返ってくる。
 中長期的な時間軸での投資判断を促すことを目的とした政策的な改革も徐々に始まっている。例えば、フランスでは、2年以上株式を保有する投資家に対して通常の2倍の議決権を付与する「Florange Act」と呼ばれる法律が2014年に成立し議論を呼んでいる。欧州議会でも、一定期間以上株式を保有する株主を、議決権や配当金等で優遇する制度の導入が検討されている。投資判断における時間軸の中長期化の要請を追い風に、海外では環境問題や人権問題といったESG課題を投資判断において重視する動きが強まっている。
 第三のトレンドは、機関投資家に対するアクティブ・オーナーシップ(積極的株主行動)の要請だ。2010年に英国で導入された「スチュワードシップ・コード」は、投資先企業の状況を正しく理解するとともに、企業価値向上を目指して企業との対話を行うことを機関投資家の行動規範として定めている。その範疇には投資先企業のESG課題への対応状況を把握することや、対策強化を促すことも含まれている。同様のコードを導入する動きは日本をはじめ、南アフリカ、イタリア、マレーシア、香港等に拡大しており、機関投資家の行動にも影響を与え始めている。

日本のESG投資を巡る現状と今後
 今のところ、日本の運用資産に占めるESG投資の規模は先進国の中では非常に小さい。ESG投資を実践する日本の機関投資家の少なさが最大の理由であるが、個々の実務家レベルではESG情報を重要と考える割合は高いという報告があるなど、拡大の兆しが無いわけではない。日本企業の側も投資家へのESG情報の開示を強化しており、欧米企業と比べて遜色ない水準のものが増えている。ESG投資を行うための判断材料は既に十分に開示されているという指摘もある。今後、日本の機関投資家が、欧米諸外国の機関投資家のようにESG投資拡大に舵を切るかどうかに注目が集まっている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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