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アジア・マンスリー 2015年6月号

【トピックス】
政策にやや手詰まり感がみられる韓国

2015年05月29日 向山英彦


チャイナショック、ウォン高など韓国経済を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。他方、2014年来実施されてきた景気対策の効果はこれまでのところ限定的であり、政策にやや手詰まり感がみられる。

■厳しい外部環境が続く
韓国ではこの数年+2~3%台の低成長が続いており、2015年1~3月期の実質GDPも前年同期比+2.4%にとどまった(詳細は「韓国」参照)。低成長が続いているのは、2000年代に形成された大企業のグローバル展開に依拠した輸出主導型の成長メカニズムが機能しなくなったためである。とくに最大の輸出相手国である中国の影響(「チャイナショック」)を受けて、対中輸出が低迷しているほか、最近では資源国の多いASEAN向けが著しく減少している。

チャイナショックには中国の成長率低下のほかに、次の三つが指摘できる。第1は、資源需要の減少とそれによる資源国の景気減速である。海運需要の減少により、韓国では海運や造船産業が打撃を受けた。第2は、中国の過剰生産である。中国ではリーマン・ショック後に、景気対策の一環として大規模な公共投資が実施された。鉄鋼、石油化学など素材産業では積極的な増産が図られたが、その後の需要鈍化によって過剰な生産能力を抱えることになった。在庫が増加したため、安価な中国製品が海外市場に溢れ出した。第3は、中国企業製品との競合である。上記の素材に加えて、液晶パネルやスマートフォンなどが代表例である。

さらに近年、経常黒字の拡大を背景にウォン高が進んだことも、韓国企業にマイナスの影響(輸出と決算面)を及ぼしている。経常黒字の拡大は投資が貯蓄を大幅に下回る「不況型黒字」の性格が強い。貯蓄率がほぼ横ばいで推移しているのに対して、投資率が著しく低下したのが近年の特徴である(15年1~3月期の経常黒字額は前年同期をさらに上回った)。

■限定的な景気対策効果
従来の成長モデルが機能しなくなった一方、朴槿恵大統領がめざす創造経済の実現は遅れている。14年2月の「経済革新3カ年計画」策定後、主要都市に創造経済革新センターが設置され、自治体や大企業、研究機関などが連係してベンチャー企業の振興を図っている。もっとも、成果が出るまでに相当の時間を要するものだけに、最近では景気対策に注力している。

14年7月の内閣改造で、経済副首相兼企画財政相になった崔炅煥氏は短期間に矢継ぎ早に景気対策を打ち出し、一時は「チョイノミクス」として注目された。主なものに46兆ウォンの資金投入、不動産融資規制の一部緩和、景気刺激を目的にした税制改正(15年1月施行)、景気に配慮した15年度予算編成(14年度予算比19.6兆ウォン増額の375.4兆ウォン)などがある。

税制改正の狙いの一つは家計所得の増大を図ることであり、①賃金を引き上げた(過去3年の平均よりも)企業に対して増加分の10%(大企業は5%)を税額控除する、②配当所得に対する税率を引き下げる、③投資、賃上げ、配当などへの支出が当期所得の一定額に満たない場合、不足分について課税するなどの規定になっている。

また、政府に歩調を合わせるかのように、韓国銀行は14年8月、10月、今年3月に利下げを行ってきた。利下げは不動産融資規制の緩和と相まって、不動産市場を活気づかせているほか(右上図)、企業の増配も加わり株価上昇をもたらしたものの、これまでのところ景気対策の効果は総じて限定的である。

この点に関して、次の二点が指摘できる。一つは、利下げが設備投資の回復につながっていないことである。これには、内外需の低迷に加えて、企業収益の悪化などが影響している。もう一つは、消費の抑制要因が存在していることである。近年、民間消費の伸びは経済成長率を下回っており、要因として、①所得の伸び悩み、②消費性向の低下、③非消費支出(家計債務と社会保険負担など)の増加などが指摘できる。韓国では18年に「高齢社会」に入る見通しで、老後の備え(貯蓄)を増やしていることが消費性向の低下につながっている面もある。

政府は税制改正により企業に賃上げを促しているが、業績が低迷するなかでの賃上げは難しい。その一方、配当を増やす動きがみられるが、これによる消費の押し上げ効果も、家計の株式保有状況を踏まえると、限定的とみざるをえない。

■政策に手詰まり感も
こうしたなか韓国銀行は利下げの副作用(家計債務の増加)に注意しながらの慎重な金融緩和を余儀なくされている。家計債務残高は昨年末に1,000兆ウォンを超え、可処分所得に対する家計債務比率は、OECD諸国の平均を大幅に上回っている。債務の増加は、①住宅ローン、②教育ローンや自営業者による事業資金借り入れ、③低中所得層による生活資金の借り入れなどが増加したことによる。住宅ローンは所得や資産が比較的多い層に集中しているため、金融システムには深刻な影響を及ぼさないとされているが、債務水準は警戒水準に入っている。

韓国銀行の李柱烈総裁が4月の金融通貨委員会直後の会見で、政府に追加景気対策を求める発言を行ったが、これは中央銀行の置かれた立場を反映している。他方、政府の財政政策にも制約がある。韓国の債務(中央政府+地方政府)残高の対GDP比率は2014年現在、35.1%と比較的低水準であるが、近年債務の増加ペースが速まっていること、今後社会福祉関連の支出増加が予想されることなどから、大型の財政政策には慎重にならざるをえないだろう。

政策にやや手詰まり感がみられるなかで、この状況をどう打開していくのか注目される。