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地方創生における「外もの」の活用可能性
―地方創生のための地域側と「外もの」の覚悟―

2015年05月20日 小林味愛


1. はじめに
 現在、官民の垣根を越えて「地方創生」に関する議論が展開されており、政府は、地方の取り組みに関し、財政支援や人的支援をはじめ様々な支援策を実施し始めるようになった。このような中、シンクタンク・コンサルティング会社(以下「シンクタンク等」)任せになってしまうこともある地方創生の事業に関し、批判もなされているところである。
 当然、「地方創生」に関する枠組みが今後成果を発揮するかどうかは、主役となる各地域が自ら考え、責任をもって課題解決に取り組むことができるかどうかにかかっている。そのなかで、シンクタンク等をはじめとした外部人材の活用について、どのように考えれば良いのか。本稿では地方創生に関する取り組みを各地域が実施するにあたり、上記の批判も踏まえ、そのあり方を検討していきたい。

2.「外もの」の活用策
(1)シンクタンク等に対する批判
 多くのシンクタンク等は、地方創生に限らず、国・自治体の事業を受託し、各種政策課題に関する調査・分析業務を実施している。ただし、地方創生の議論に関連しては、コンサルタント任せの事業の実施についての批判もなされているところである。その批判の多くは以下の点に集約される。

①事業を受託したシンクタンク等は「成功事例のコピー」を提案することが多く、実効性が乏しい。
②地域活性化に必要なのは客観的助言ではなく、地域が主体的に実行するための実施体制である。
③シンクタンク等に事業を任せることにより、地域の「他力本願」の姿勢を助長することとなる。

 上記①の批判は、具体的には、シンクタンク等に知見が無いが故に、事業を受託した後にいわゆる「成功事例」に関するヒアリングに赴き、その「成功事例類似の施策」を提案するのみにとどまる場合が多く、地域活性化につながらないという趣旨のものである。確かに「成功事例のコピー」を提案したところで、地域ごとに状況や課題は異なり、仮に当該地域での取り組みの参考になるとしても、それのみでは実効性に乏しい。しかし、成功事例の調査については、「このようなプロセスでこのような取り組みを実施している地域もある」と成功事例をその実現までの「プロセス」や「仕組み」も含めて分かりやすい形でまとめることにより、「自分たちもやってみよう」との地域の主体的な「意識」を向上させる効果もある。具体的には、地域活性化の先進地で先進事例の「プロセス」や「仕組み」等、先進事例が生み出された「要因」を調査・見聞し、「気づき」を得ることを通し、自らの地域では何ができるかという主体的に検討する「意識」が芽生え始めることが期待できる。当然「成功事例のコピー」の計画や事業では意味はないが、上記のように「成功事例」を分かりやすい形で提示することは、地域の主体性を育むための1つの「手法」となる。
 上記②および③の批判は、要するに地方創生に関する施策をシンクタンク等に任せても地域の主体性は育まれない、というものであろう。当該批判はもっともだと認識している。ただし、地方創生に関する施策をシンクタンク等に「任せる」という点において、ということである。地方創生においてまず重要なことは、自治体や地域の事業者をはじめとした地域が、「主体的に」地方創生にかかる取り組みを実行する体制を構築することである。したがって、シンクタンク等に計画の策定や事業の全てを任せていたら、当然地方創生は実現できない。しかし、シンクタンク等にはこれまでに蓄積されてきた多くの知見があることは確かであり、それを地域の「主体性」を尊重しながらいかに「活用」できるかが鍵となる。

(2)地方創生を考える上での視点
 筆者がこれまでに地域活性化に関する取り組みに関与する中で、地方創生を考える上で重要であると考える視点は主に以下の2つである。
①「主体性」・「継続性」
 わが国は、他国に先駆けて「人口減少・超高齢社会」の危機に直面しており、東京圏をはじめとした都市部への過度の人口移動も相まって、中山間地域では集落の維持・存続すら危ぶまれる状況にある。したがって、一国を維持するとの観点から、地方創生は国の重要な政策課題であるが、実際にそれぞれの地域で「実行する」のはそれらの地域の人間である。そのため、地域がいかに「主体的に」地方創生の取り組みを実行できるかが「継続性」を担保した地方創生の実現の鍵を握る。そのため、地域側として「外もの」を活用する際には以下の視点が必要となる。

【「主体性」・「継続性」に関する地域側の視点】
〇地方創生に係る取り組みの理念を「外もの」任せにしない。
〇地域での実施体制を構築する。

「こういう地域でありたい」という将来の地域像を「外もの」が検討することは困難である。「外もの」は、地域で考えた理念を実現するためのサポートをする存在であり、地域の根幹ともいえる理念はやはり地域の人々が議論し、検討していく必要がある。
 また、地方創生に関する取り組みは、実現までにある程度の期間を要し、一機関や一個人のみで実施することはできない。したがって、地域で継続的な取り組みとする必要があり、その観点からも地域での共感者を増やし、様々な分野の人々が主体的に関与するようないわゆる「地域一体となった」実施体制を構築することが重要である。この実施体制の構築にあたっては、地域事情に精通していない「外もの」ではなく、地域の人々が声をかけ、体制を構築していく必要がある。
 それでは、シンクタンク等をはじめとした「外もの」は、この地域の「主体性」を育むにあたり、どのような役割を果たすことができるであろうか。筆者は、以下の視点が重要だと考えている。

【「主体性」・「継続性」に関する「外もの」の視点】
〇主体的に動きすぎて「自己満足」に陥らない。
〇地域での「しがらみ」の無さを活用する。

 まず、地域側にとっては「他人ゴト」である壮大な構想とも受け取られかねない地方創生にかかる取り組みをいかに「自分ゴト」として捉えて動いてもらえるようにするか、「外もの」として、地域側に主体的に考えてもらう環境を作り出すことが重要である。したがって、「外もの」が「何でもやる」、「任せてくれ」と売り込み、地方創生にかかる地域の全ての取り組みを担ってしまうと、逆に地域から主体性を奪うことになりかねない。一見「頼りになる」、「活躍している」ようには見えるが、「外もの」として関わる以上、永遠に当該地域にいることは困難であり、長期的な視点から見れば「自己満足」に陥っているともいえる。したがって、「継続性」の観点からも、「外もの」はそれぞれの地域において、いかに「主体性」を育むかという視点を常に意識しながら取り組みを進める必要がある。
 また、上述のとおり、地方創生にかかる取り組みを継続的に実現するためには、「地域一体となった」実施体制を構築することが必要不可欠である。そのためには、地域側が主体的に動くことは当然であるが、「外もの」も地域の要望に応じて、地域関係者との関係を必要に応じて仲介する必要があると考えている。地域によっては、コミュニティが密だからこそ関係者間での「しがらみ」が存在する場合が多くあり、関係者同士で直接言えない「暗黙の掟」もある。実施体制の構築をはじめ、地方創生にかかる取り組みを実現するにあたり、地域側でそのような「しがらみ」が邪魔になるのであれば、「外もの」としてうまく「活用される」という視点を持つとともに、そのような選択肢を提示することも必要となろう。ある意味では、「外もの」が「悪者」になる勇気も必要なのではないか。

②「実効性」
 「主体性」を育み、地方創生にかかる機運が盛り上がったとしても、その取り組みが実現可能なものでなければ、最終的に「実行」までたどり着くことはできない。したがって、いかに「実効性」のある取り組みを検討できるかも重要な要素となる。そのため、地域側としては、特に以下の視点が重要となる。

【「実効性」に関する地域側の視点】
◯「補助金がつくから取り組みを行う」という考えをなくす。

 地域側は、度々「定額補助があるのであればやる」といったように、財源を補助金のみに頼ることを前提として取り組みを進める場合がある。当然、財源は必要とはなるが、多くの補助は単年度で終わり、また、事業ごとに要件が異なるため、補助金の交付を受けるためだけにその要件に合わせて地域側が真に実現したいビジョンを曲げてしまう場合も見受けられる。したがって、「補助金ありき」の取り組みではなく、地域の課題を地域で「問題意識を持って」検討し、その課題を解決するために、必要に応じて補助金を活用する、という発想を定着させる必要がある。
 また、シンクタンク等をはじめとした「外もの」は、「実効性」のある取り組みとするために、以下の視点が重要だと考えている。

【「実効性」に関する「外もの」の視点】
〇「実行に移す」という具体的な場面を常に想定しながら、助言・サポートを実施。

 シンクタンク等が地域活性化関連の事業を受注し、調査・分析を経て理論的に編み出した当該地域のビジョンやそのための計画を記載した報告書を提示すると、地域側から「言っていることは分かるがこの地域では難しい」との声が聞かれる場合がある。この「難しい」とは、要すれば「実行に移せない」という趣旨であるが、その理由としては、主に以下の3点が考えられる。
  i. 【具体性の欠如】方向性には賛同するものの一般論・理想論に過ぎず、実際に当該地域で具体的にどのように進めたら良いか不明。
 ii. 【人材等の不足】具体的な進め方も含め方向性には賛同するものの、当該地域に計画を実行に移す人材・ノウハウが不足している。
iii. 【地域の事情に不適合】多くの地域では当てはまる方向性かもしれないが、当該地域の事情を踏まえると計画の方向性が合わない。

 上記ⅰの「具体性の欠如」については、一般論・理想論として「べき論」に終始し、具体化までたどり着けないシンクタンク等の「外もの」側が、さらに頭をひねり、汗をかかなければならない。少し調べれば誰でも分かるような一般論ばかりを並べていては、「一般論を中心に記載して欲しい」とのオーダーがある場合を除いて、当該事業自体実施する意義が乏しい。
 上記ⅱの「人材等の不足」については、地域活性化関連の多くの事業において、この問題が生じる。特に、地域の事業者ではなく、自治体主導の取り組みの場合、ビジョンを策定するまでは良いが、実際に実行する事業者や住民が少なく、結局中途半端な結果となってしまう場合もある。この点については、上記①で述べたとおり、「地域一体となった」実施体制を地域側がいかに構築できるかという視点のほか、人材・ノウハウ不足を補うためにシンクタンク等も首都圏で活用できる人材・ノウハウとのマッチングを図る等、地域が「やりたいことを実行できる体制」を構築するために必要となる人材・ノウハウ面でのサポートを行うことも必要となる。この点が、当該地域には属さない「外もの」の強みともいえる。「外もの」側は、初期段階からこのような可能性も提示し、地域側と人材・ノウハウを補うための策について具体的に議論していく必要がある。
 上記ⅲの「地域の事情に不適合」については、「当該地域の事情」とはいかなるものか注意が必要である。財政的な事情、文化的な事情等様々な事情が考えられるが、今一度「当該地域の事情」を精緻にあぶり出し、本当に方向性自体が合わないのか検討する必要がある。ビジョン・計画を実現するためにその「事情」を解決するための手法を検討できる可能性もあり、また、地域側が「合わないと思い込んでいる」場合も想定される。特に、後者の場合は「外もの」であるからこそ地域側に新たな気づきを与えることができる場面でもあり、本当に方向性自体が当該地域に合わないのか、地域側と真摯に話し合う必要があろう。
 このように、「外もの」が地域の課題解決に携わるからには、地域の要望に真に耳を傾け、現地を頻繁に訪問し、「実行に移す」という具体的な場面を常に想定しながら、助言・サポートを真摯に検討する必要がある。中途半端に関与して一般的な助言ばかりを行っていたら全てが「絵に描いた餅」となってしまう。限られた期間で地方創生の裏方として、進捗状況に応じた「具体的な成果を出す」という覚悟が必要ではないか。

3.おわりに -真の地方創生の実現のために-
 地方創生の主役は地域である。その意味で、「外もの」は裏方として真に役に立つための手法を常に検討する必要がある。これまで述べてきたように、地方創生の議論の中でシンクタンク等をはじめとした「外もの」に対する批判が存在することは事実ではあるが、地域というそれぞれの主役が活躍できる環境をつくりあげるために、「外もの」が傍観者とならず地方創生のために汗をかくことも重要である。「地域をつくりあげる」ことや「地域の意思決定をする」ことは当然その地域に委ねられるべきことであるが、そのきっかけをつくるために煙たがられることを恐れずに「外もの」も責任を持って地域の取り組みに参画することが必要ではないか。そのためには、地方創生の機運のみに流されず、地域側も今一度地域の課題や真に必要な取り組みを地域内で問題意識をもって検討・共有して「外もの」を地域の実情にあった形で活用するとともに、「外もの」も今一度その関与のあり方を真摯に検討する必要があるのではないか。地域側と「外もの」との「馴れ合いの関係」・「妥協した関係」では、真に地方創生を実現することは困難であり、補助金を活用した一時の取り組みで終わってしまいかねない。地域側と「外もの」とが同じ目標に向かい、想いを共有し、自らの役割に責任を持って、ともに地方創生を推し進めていくことが求められているのではないか。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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