Business & Economic Review 2005年01月号
【FORECAST】
日本経済の中期展望(2005~2009年度)
2004年12月25日 調査部経済研究センター
要約
- わが国経済は、電子デバイス分野の生産調整、輸出の増勢鈍化、素材価格の上昇などの影響を受けて、2004年半ばから調整色が出てきている。もっとも、消費マインドの持ち直しを背景に個人消費が堅調を維持しているほか、企業部門の設備投資スタンスも底堅さを保つなど、景気の基調が大きく崩れているわけではない。
- 2005年度を展望するうえでは、a.外需の牽引力、b.原油価格上昇の影響、c.製造業部門の調整圧力、の3点がカギを握ることになろう。
イ)アメリカ経済・アジア経済は、緩やかな減速に向かうものの、景気が失速するリスクは小さいと判断。こうした底堅い海外経済の動向を背景として、わが国の輸出はペースを鈍化させながらも、大幅な減少は回避する見通し。なお、円高によるマイナス影響は、わが国企業の収益体質の改善、輸入原材料価格の下落などを勘案すれば、円高が加速していかない限り深刻化しない見込み。
ロ)原油価格の上昇は、最終価格への転嫁が困難な状況下、コスト増による収益押し下げ要因として働くものの、売り上げ増による増収効果も期待できるため、企業業績が大きく悪化する公算は小さい。ただし、海外経済を下押しするルートを通じて、輸出減などによりマイナス影響が強まる可能性には注意が必要。
ハ)電子デバイス分野の生産調整は、a.世界的に需要が底堅いこと、b.2000年のような生産能力の急増が避けられていること、を背景に、比較的軽微にとどまる見込み。また、素材関連・自動車など電気機械以外の牽引力が高まっているため、製造業全体の生産活動が大きく減少する可能性は小さい。
ニ)以上から、当面、景気は調整状態を余儀なくされるものの、2005年度下期から、企業部門に牽引されて回復に向かう見通し。
- 2009年度までを展望すると、a.企業部門の収益体質、b.家計部門の回復力、c.デフレからの脱却、d.財政健全化、の四つが焦点に。
イ)素材価格の上昇が収益圧迫要因として働き続けるものの、経営効率化の取り組み持続、人件費抑制スタンスの維持、有利子負債の削減などを背景に、収益体質の改善は今後もさらに進む見通し。
ロ)労働分配率の引き下げ圧力が残るなか、所得環境の大幅改善は期待薄。もっとも、1998年以降の所得の大幅減少トレンドには歯止めがかかっており、今後、所得環境は緩やかに持ち直す見通し。この結果、増税・社会保障負担を踏まえた可処分所得はほぼ横ばいに推移。加えて、消費者マインドの改善、高齢化の進展による消費性向の上昇なども見込まれるため、個人消費は名目ベースでも年1%程度の増加は期待可能。
ハ)需給ギャップの縮小により、2006年以降、デフレ脱却が展望できる状態に。ただし、その後も、賃金の抑制が続くため、物価上昇は緩やかなものにとどまる公算。また、原材料価格の上昇分も企業部門で吸収される構図が続き、最終製品価格への波及は限定的にとどまる見通し。
ニ)財政再建への道筋を確保するためには、経済活性化による成長率の回復と、歳出合理化・税収増加を、同時に達成することが必要。また、家計への負担増を進めるにあたっては、家計の将来不安を払拭することが大前提であり、そのためには社会保障制度を再構築することが不可欠。
ホ)以上をもとにすれば、2006年度以降のわが国経済は、企業部門に牽引される形で緩やかな回復傾向が続く見通し。もっとも、家計への負担増が段階的に進められる結果、個人消費は低空飛行から脱することは困難。内需主導の回復力が脆弱にとどまるなか、外的ショックにより景気が失速するリスクを排除することはできず。
- 潜在成長率ペースを維持するためには、a.企業部門の三つの過剰、b.企業革新力、c.国民生活、d.財政・金融政策、の四つを「正常化」していくことが必要。
こうした観点に立てば、企業部門としては、a.成長分野への経営資源の集中、b.未来産業への先行投資、c.人事・報酬制度の再構築、に取り組むべき。
また、政府としても、わが国経済の基礎体力を強化するための各種措置を講じ、企業部門の改革を支援していくことが必要。また、社会保障制度、地方分権、公的金融の見直しを優先的に行い、家計への負担増はこれらの制度改革にメドが立った後に進めるべき。