オピニオン
CSRを巡る動き:徐々に広がる共感投資
2015年03月02日 ESGリサーチセンター
共感が物やサービス購入のきっかけになることが増えてきています。投資においても、単に金銭的なリターンを得る手段と捉えるのではなく、共感した投資先を応援するための手段と捉える風潮も高まっています。
いくつかの例を紹介しましょう。2000年に、出版会社である栄治出版が、出版にかかる費用を出資者から獲得し、その損益を出資者に配分するというブックファンドを立ち上げました。最初のファンドは、内モンゴルからの留学生が日本語で書いた詩集でした。留学生の詩や散文に仲間たちが感動し、留学生の詩集を世の中に広げるために、ブックファンドを活用しました。その結果、詩集としては異例ともいえる4000部超の販売となりました。詩集の内容もさることながら、仲間達が応援するというストーリーに共感した出資者や詩集購入者も多かったのかもしれません。当該ブックファンドは、元本に対して16.6%の配当金をのせて償還されたといいます(※1)。
2009年には、アーティストの発掘のための資金調達を手掛けてきたミュージックセキュリティーズが、マイクロ投資プラットフォーム「セキュリテ」の運用を開始しました。マイクロ投資の名のとおり一口数万円から出資することが可能で、途上国の貧困削減支援を目的としたものから、国内の地酒作りを応援するものなど、国内外様々な事業を出資対象先に取り揃えています。中でも、震災後に、被災地の企業を応援する目的で立ち上げられた「セキュリテ被災地応援ファンド」は、被災地で企業が立ち直ることを応援しようという共感を多く生み、累計で11億円以上集めました(※2)。
2014年12月には、ショッピングセンターのパルコが、ショッピングセンター事業者としては日本初となる、クラウドファンディング・サービス「BOOSTER(ブースター)」を立ち上げました。ブースターでは、斬新なアイデアを持つデザイナーやクリエイターが事業者として登録し、プロジェクト実現のために必要な金額を募ります。目標金額が集まらなければ出資者には出資額が返金され、集まればプロジェクトを実施します。プロジェクトには、デザイナーのNY進出や雑誌発行などが含まれます。ここでのリターンは、支援したデザイナーの作品や展示会への招待などで、出資額に応じて決められています。実現したいこと、これまでのストーリーなどがブースターのHPに記載されており、それに共感した出資者が出資を行う仕組みになっています(※3)。
これら共感投資は、一口あたりの規模が少額であり、対象は一プロジェクトや一商品と小規模なものが多いという特徴があります。そのため、足元では上場企業に対する投資行動とは全く別のカデゴリーで捉えられています。ただ、共感投資という経験が多くの人のものとなれば、将来、個人投資家が上場企業の銘柄選択を行う際の考え方にも影響が生まれるかも知れません。その場合、共感を集める企業とそうでない企業を分けるのは、企業がどういった価値を重要視しているのか、収益獲得以外の何を実現しようとしているのかといったストーリーが問われることになると考えられます。
コーポレートメッセージは、企業がどういった価値観を重要視しているのかを判断する1つの材料です。例えば、上記ブースターを運営するパルコは、「SPECIAL IN YOU.」をコーポレートメッセージに掲げ、才能のある若手人材育成に注力しています。ブースターもその一環であるとしています。イノベーションを重視する同社の姿勢と極めて整合的です。また、小売の良品計画は「感じよい暮らし」の実現、というメッセージを打ち出しており、そのための取り組みも詳細に開示。商品開発にもそうしたメッセージが貫かれています。
何年も変わることのないコーポレートメッセージが、足元の株価を左右する材料になることは考え難いかもしれません。しかし、共感投資が拡大してきている現状から将来を展望すると、長期的には株価に重要な影響を与える要素となる可能性は十分にあるのではないでしょうか。
※1 栄治出版HP(http://eijipress.co.jp/bookfund/)
※2 セキュリテHP(http://www.securite.jp/)
※3 ブースターHP(http://www.booster-parco.com/)