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「CSV」で企業を視る/(29)千代田化工建設の水素サプライチェーン構築に向けた取り組み

2015年03月02日 ESGリサーチセンター、長谷直子


 本シリーズ29回目となる今回は、共有価値創造の手法の1つである、「顧客ニーズ、製品、市場を見直す」という視点で、水素社会の実現に向けた課題解決に挑戦する千代田化工建設の事例を紹介する。

 2013年9月から2014年11月にかけて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)総会における最新の科学的知見をまとめた第5次評価報告書が承認・公表され、気候システムの温暖化は疑う余地がないことや、人間による影響が温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いことなどが示された。また、産業革命前と比べて気温の上昇を2℃未満に抑えるには、2050年までに温室効果ガス排出量を2010年比41~72%削減する必要があるとした。気候変動問題の解決に向けて、温室効果ガスの排出削減に寄与する再生可能エネルギーや次世代エネルギー等の利用促進が求められる。なかでも水素は、燃焼時にCO2が排出されないクリーンエネルギーとして注目が高まっている。ただし、水素の実用化にあたっては、運搬に必要な専用設備の建設や、水素製造時にCO2が排出されるといった問題を懸念する声もある。運搬や燃料製造時なども含めた、サプライチェーン全体での環境負荷低減を実現してこそ、真にクリーンなエネルギーと言えるようになる。

 千代田化工建設は、LNG(液化天然ガス)プラントの設計・調達・建設(EPC)業務を柱とする総合エンジニアリング企業である。2013年以降、複数の大型新規LNGプラントを続けて受注し、2014年度中間期の受注残高は過去最高水準となったが、業績が好調なうちにLNG事業以外の新たな収益の柱・ビジネスモデルを構築しようと新たな取り組みを始めている。2013~2016年の中期経営計画では、今後の成長戦略における新たな収益の柱として「新エネルギー、再生可能エネルギー分野の強化・拡大」が位置づけられ、太陽熱発電や水素といった新領域に進出している[1]。
 なかでも特に注目されるのが、水素供給事業の取り組みだ。同社は独自の技術開発により、真にクリーンな水素社会の実現に向けた複数の課題を解決しようとしている。1つ目は、輸送における課題である。水素は常温・常圧では気体で非常に軽く、すぐに大気中に漏れてしまう。また体積が大きいため、圧縮して運搬する必要がある。水素ガスを-253℃以下で液化したり、圧縮して高圧ガスの形で運ぶ技術もあるが、取扱いが難しく専用の設備が必要になる。同社では、水素をトルエンに結合させ、メチルシクロヘキサン(MCH)という液体(SPERA水素)にする技術を世界で初めて開発した。水素を常温・常圧の液体として扱うことができるため、海上輸送であれば石油や天然ガスなどを運ぶタンカーなどの既存の石油系インフラを活用でき、陸上輸送であれば、ケミカルローリーなど化学物質を輸送する通常のインフラを活用して水素を運ぶことができる。これにより、新たな専用パイプラインや水素運搬用の専用船の建設にかかるコストやエネルギーを大幅に削減することができる。
 2つ目は、水素をどこから調達し、需要家に供給するかという課題である。日本政府は、2014年4月に公表した「エネルギー基本計画」において、2030年を目途に水素発電を本格導入する方針を示した。水素発電を行うには大量の水素が必要となるため、国内の水素だけでは供給が足りず海外からの輸入が有望となる。千代田化工建設では、海外の天然ガス産出国、石油産出国で大量に生成される副生ガスに注目している。これを精製して、水素を取り出す方法を検討しているのである。
 3つ目の課題は、燃料製造時における環境への負荷である。石油や天然ガスなどの化石燃料を改質させて水素を取り出す製造方法や、前段で述べた副生ガスを精製する方法ではその際にCO2を発生させてしまう。このため、千代田化工建設では、将来的には太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーを用いて水を電気分解し、水素を製造する方法も検討している。再生可能エネルギーから水素を作ることができるようになれば、燃料製造時も含めて全くCO2を排出しない燃料が実現する。
 同社では、水素の海外調達、輸送、需要家への供給まで、一連の水素サプライチェーンを構築するため、川崎市と共同で川崎市臨海部での水素化プラント等の実証プラントの建設を計画するなど、現実にも一歩を踏み出している。FCVや水素発電所の普及が加速した場合、全世界の水素インフラ市場は2020年に10兆円を超え、2030年に約37兆円、2050年に約160兆円に達し [2]、我が国だけでも2030年に1兆円程度、2050年に8兆円程度に拡大する[3]との予測もある。サプライチェーン全体で環境負荷低減を実現する千代田化工建設の取り組みは、真にクリーンな水素社会の実現に貢献し、化石燃料の消費量削減を通じて気候変動問題の解決に寄与すると考えられる。

 同社が「SPERA水素」の開発に着手したのは、2002年だという。顧客ニーズが顕在化する前から水素社会の将来性を見越し、他社に先駆けて取り組んだことで、他社が追随できないポジションを築きつつある。水素社会の実現に向けてインフラ整備が進む中で、先駆者としての競争優位性が発揮されれば、同社に大きな事業機会をもたらす。同社の収益源の新たな柱になることも期待できよう。

[1] 千代田化工建設株式会社 ホームページhttp://www.chiyoda-corp.com/
[2] 『世界水素インフラ プロジェクト総覧』(発行:日経BP社、調査:日経BPクリーンテック研究所、2013年)
[3] 水素・燃料電池戦略ロードマップ 平成26年6月23日 水素・燃料電池戦略協議会

*この原稿は2015年2月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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