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日本総研ニュースレター 2010年1月号

電気自動車時代に競争力を失わないために

2010年01月04日 宮内洋宜


電気自動車元年を終えて
 2009年は、三菱自動車からi-MiEVが、富士重工業からはスバル・プラグイン・ステラが市場に投入された。出荷台数の合計は2,000台に満たず、利用者も自治体や企業などに限られる状況ではあるが、ガソリン自動車と比較して勝るとも劣らない動力性能を持つ本格的電気自動車が街を走り始めたことは、電気自動車元年といえる出来事であった。
 2010年には一般への普及が始まる。i-MiEVが一般消費者に販売され、日産自動車でも2009年8月に発表したリーフを1万台規模で量産する予定となっており、この市場はますます盛り上がりを見せるだろう。

電気自動車の新市場
 だが、電気自動車の市場を既存市場の延長線上で捉えることは不適切である。
 日本の自動車製造業は、エンジンやトランスミッションといった複雑な工業製品における先進的な技術によって高い競争力を保ち、日本の基幹産業として長らく経済発展を支えてきた。しかし、電気自動車は内燃機関自動車と比べて単純な構造であるため製造の難易度は比較的低く、技術力に劣る新興メーカーに向いた製品ともいえる。中国、インドといった新興国のメーカーも、足元の旺盛な需要に支えられて成長し、ダークホース的存在になり得るのである。つまり、電気自動車の登場は、単にエンジンが蓄電池とモーターに置き換わる以上のパラダイムシフトを自動車市場に引き起こす力がある。
 例えば、先に報じられた三菱自動車とPSAプジョーシトロエン(以下PSA)との資本提携交渉を弱者連合と見る向きもあるが、実は電気自動車市場ではこの連合が競争優位に立つ可能性は十分にある。環境意識の高い欧州でシェアを持つPSAの販路を活用して三菱自動車の電気自動車を販売できるからである。需要をとらえて量産面での先行優位を確保すれば、後手に回った企業が追いつくのは難しい。

不況にあえぐ日本の産業界の期待
 もちろん、電気自動車の時代になるからといって、日本の自動車業界が簡単にシェアを失うとは考えにくい。
 また、電気自動車はエンジンなどの部品がなくなる一方で、モーターやインバーター、そしてなによりも大量の電池が新たに必要となる。蓄電池の技術やマイコン制御の技術に強みを有する日本の産業界にとって、電気自動車は次の有力な商品となり得るだろう。
 これまで自動車会社と取引がなかったような業種も電気自動車をきっかけとしてサプライチェーンに加わるようになり、より複雑に絡み合った大きな生態系が構築されることとなる。限られた航続距離をカバーする周辺ビジネスの広がりも大きいものと期待されている。

インセンティブと規制のバランスが必要
 日本の自動車産業は輸出中心の収益構造となってはいるが、足元の国内市場なくしては競争力を維持することは難しく、国内普及策が必要となる。
 世に出たばかりの製品である電気自動車は、長い歴史を持つ内燃機関自動車と比較して未成熟であり、その普及には政策的な後押しが欠かせない。特に量産効果によって価格が低下するまでの初期需要をいかに作り出すかが問われることとなる。自動車税の軽減や補助金の支給といった直接的な支援策も有効であるが、それだけで初期の需要創出を支えることは難しい。従来の内燃機関自動車に対する規制を強めることで、相対的に電気自動車の魅力を上げる政策も必要となるだろう。
 電気自動車は音が静かで排気ガスを出さないため、まずは騒音や大気汚染が問題になる時間や場所での活用が受け入れられやすいはずである。例えば、ロンドンの市中心部では、渋滞を避けるための規制として平日の日中に一般自動車の乗り入れに対する課金を行っているが、電気自動車に対してはこれを免除している。また、日本の観光地でも、渋滞や大気汚染対策にマイカー規制と電気自動車の活用を検討しているところが現れ始めた。
 排出削減目標の設定や環境税の導入は産業競争力を阻害するとの見方もあるが、逆にこれを追い風として電気自動車の普及を図り、日本の産業振興につなげるべきだと考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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