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日本総研ニュースレター 2009年12月号

再生可能エネルギーを生み出す社会システム作り

2009年12月01日 赤石和幸


太陽光を中心とした温暖化政策
 民主党への政権交代によって、2020年までの温暖化効果ガス25%削減(1990年比)が国際公約になった。既に1990年比で7%も増加している我が国にとって、この先進国における最高水準の目標達成は容易ではなく、社会システムの根本から見直す必要があるといえる。
 国立環境研究所の試算では、太陽光発電を7,900万kw、電気自動車などの次世代自動車を2,170万台、新築住宅の次世代省エネ基準適合100%などが目標の達成に必要とされている。これらの施策の中心にあるのは、温暖化効果ガスの排出割合が低い電力を中心とした社会づくりだ。
 経済産業省は、太陽光を中心とした再生可能エネルギーを電力会社が全量買い取るための方策を検討し始めた。周回遅れ気味ではあるが、欧州のフィールドインタリフ制度のように、売電単価に環境価値を一定期間上乗せして買い取り、太陽光発電の普及を目指すものだ。

社会システムのあり方の議論を
 一方で、全てのエネルギーが電力で賄えるわけではない。例えば、航空機、船舶そして農業といった分野では、重油などを使用する熱プロセスが必要であり、今のところ電力では代替がしにくい。いくら電力中心の社会が作られたとしても、燃料利用を前提とした熱プロセスがなくなることはない。
 また、化石燃料は約8割を輸入に頼る。つまり、化石燃料への過度の依存は、エネルギー再騰リスクを抱え続けることを意味する。わが国が、低炭素時代において、持続可能な社会を作るためには、再生可能エネルギーを国内で自給する社会システムを作り上げることが必須になる。

スウェーデンに学ぶ再生可能エネルギーの生み出し方
 わが国と同様、スウェーデンではエネルギーの自給率が低く、化石燃料の多くを海外に依存している。そこで国策として、再生可能エネルギーを積極的に推進するようになった。同国では一次エネルギーに占める再生可能エネルギー比率を50%に引き上げることを目標に掲げ、2008年度時点で既に43%にまで達している。太陽光や風力のほか、バイオガスを中心とした再生可能エネルギーの生産を政府としてバックアップしている。
 まず、税の優遇措置である。バイオガスは約20%の付加価値税(消費税)や燃料税などが減免され、ガソリンと比べ小売価格が15%程度安い。ストックホルムでは路線バスの約半分がバイオガスで運行され、自家用車として国産のボルボが、ガソリンとのバイフューエル車が市販されている。
 さらに重要なのは、再生可能エネルギーを活用する社会インフラ作りである。下水処理場やごみ焼却施設をエネルギーの供給拠点と位置づけ、廃棄物の回収から処理の方法を、エネルギーへの転換を前提として設計している。
 そのため、廃棄物は湿潤系と乾燥系に分けて回収している。生ごみ、下水、畜産などの湿潤系廃棄物は、下水処理場でバイオガス化し、紙やプラスチックなどの乾燥系廃棄物は、ごみ焼却施設で発電に利用する。こうして再生可能エネルギーを、一連の社会インフラの中で作り出している。

バイオガスを再生可能エネルギーの重点政策に掲げよ
 スウェーデンのように、廃棄物を乾燥系と湿潤系で分けて処理すると、従来の焼却処理に比べて総合エネルギー効率は37%上昇し、1トンあたりの処理にかかる二酸化炭素も32%削減される。また当然、バイオガスを生み出すため、エネルギーの自給率向上にも寄与する。
 しかし日本の廃棄物政策は省庁縦割りが根強く、生ごみは環境省、畜産系は農水省、下水は国土交通省が別々に管轄する。同地域に複数の処理施設があることも珍しくない。このため廃棄物を集めづらく、また含水率が高い生ごみを焼却するといった非効率な運営がなされている。わが国には下水処理場が約300箇所、ごみ焼却施設は1200箇所もある。世界最高水準の環境技術力も有するが、エネルギー自給策には有効活用されきっていない。
 国内の廃棄物全てをスウェーデンのように徹底した分別を実現できた場合、国内の二酸化炭素の排出量が約0.5%抑制される計算になる。
 人口密度が高いわが国では、廃棄物の収集効率が高く、ビジネスモデルとして成立しやすい。わが国が誇る環境インフラや技術力を最大限活用する社会システム作りを、今こそ国家戦略として取り組むべきではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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